2008/1/11 ページ12
熱で頭がどうこうなることも無く、私は退院までの日々を悠々自適に過ごしていました。
涙は、もう流れません。
歯を食いしばりすぎて奥歯や顎は痛いし、目は未だに乾燥しているし、こめかみには何度か痛みが走るけれど、もう悔しさはありません。
そして、聖臣がやっと来てくれました。
緊急入院の時、両親と共にいっしょにいるところをうっすらと見た時が最後でした。
それから1週間、聖臣が来ることはありませんでした。
けれど、今目の前にいます。
ですが聖臣は、病室の扉を閉めてからこっちに来ようとしません。
その顔は苦悶に満ちた表情と、大きな悲しみの色に満ちていました。そして一度私の姿を見ると、俯いて顔は見えなくなってしまいました。
『聖臣』
「…………ねぇ、ちゃん」
『聖臣』
「おれ………ごめ」
『聖臣。私の方を見て。』
聖臣は、びくりと肩を震わせると、恐る恐る顔を上げ、私の方を見ました。
よく見ると、聖臣の目元も赤く、唇が乾燥しています。
顔色もよくありません。きっと、ちゃんと寝れていないのでしょう。
『聖臣、私が怒っているように見える?』
「…………それは」
『聖臣ならわかるはず。ちゃんと私を見て。』
私の少し強めな言い方に、聖臣は再び肩を震わせると、私の目を見ました。あ
私のことをじっと見つめた聖臣の顔は、だんだんと苦悶から解放されていきました。
眉間の皺や俯いていた感情が、解けていった表情でした。
そして聖臣は、目元に涙を溜めて、顔を歪めました。
それは恐怖から来るものでも、嬉しさから来るものでもなく、何もかもから開放された際に起こる、安心から来るものでした。
『聖臣』
「……っ、ねぇちゃぁ………!!」
聖臣はやっとその場から駆け出し、ベッドに座る私に飛びついて来ました。
私は優しく抱き留めて、頭を撫でてやりました。
「ごめっ、ごめなさっ、あい、ねちゃ、ごめんなさいっ!」
『うんうん、もういいから。聖臣のせいじゃないからね。仕方の無いことって沢山あるんだよ、世の中には。』
私も聖臣も、精一杯のことをして、それでもかかってしまった。そうなら、あの時もっとこうすれば、とか何がいけなかったとか、そういうことは分からない。
『例え聖臣が悪くても、私は聖臣を嫌いになんてならないから、大丈夫だよ』
私はきつく、きつく聖臣を抱きしめました。
『聖臣、大好きだよ。これからずっと、私は何があっても、聖臣を好きで居続けるから。何も不安にならなくていいんだよ。嫌われるかもって、怖がって泣くこともないからね』
いつだって、私の天使に最大の愛情を。
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ワッキー - かっこいいし、かわいいってなんだよぉぉぉ!マジで面白かったです! (2023年4月16日 9時) (レス) @page50 id: a8cf9029ad (このIDを非表示/違反報告)
名無し84302号(プロフ) - 佐久早くんイケメン過ぎる、叫んじゃうとか、これ思いつく作者さん天才過ぎます!! (2023年3月6日 22時) (レス) @page43 id: 81c0b10d37 (このIDを非表示/違反報告)
雑草(プロフ) - アッ……しゅき…… ♡てぇてぇ、…溶けてまう………!!!更新頑張って下さいませ…!!!!!!!!! (2023年3月3日 0時) (レス) @page14 id: a938fb89f1 (このIDを非表示/違反報告)
あず - 佐久早くんが尊すぎ、、、。幸せ( ^ω^ ) 更新頑張ってください! (2023年3月2日 19時) (レス) id: 3268445afc (このIDを非表示/違反報告)
むむたろう(プロフ) - 佐久早くん、天使ですよね…。兄弟になれるなんて羨ましい…()更新頑張ってください(^^) (2023年3月2日 17時) (レス) @page3 id: aff0088c77 (このIDを非表示/違反報告)
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