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「我らが麗しき(サー)。準備が整いましたよ」
『ご苦労だった、太宰君。後で好きなものを強請りなさい』
「いえ、麗しの(サー)。そのお言葉だけで充分です。」



執事が黙り込んだのを伯爵はクスリと笑って見逃してやると、携帯を片手に誰かと話していた太宰が近寄り、再び胸に手を当てて恭しく礼をしながら、伯爵が目配せで命じた任務の報告にやってきた
その褒美として、何か望むものを買ってやろうかと口に出したが、当の本人は何も望まない。



『そうか。確かに、電話一本に大袈裟ではあったかな』
「いえ、麗しき(サー)。貴女が賜う物を拒否する者などいはしません。その優しさに感謝を」



そう告げる太宰に憂いや我慢は何一つ見られない。
本心からの言葉に、伯爵は思わず苦笑が零れる。
労いの言葉だけで充分だ、なんて昔から口癖のように言っていた誰かのようで。



『………君は、ベディヴィエールみたいなことを言うね』
「貴女に誠実であろうとすると、自然とこうなるのです。……お気に召しませんか?」
『いいや。けれど無理はしないように。私の機嫌取りに自らを壊すなんてことはないようにね』
「承知致しました」



かつては、瞳に光を映さない虚ろの子であった者が、今は嬉々として自分の言葉に従っている。

太宰治はマフィアになるべくしてなった、なんて類の噂が欧州まで届いたものだが、まさかそれがあの不安定な子であろうとは、寝耳に水とはこういうことを言うのだろうか、まだことわざに明るくないのである。



_______太宰治


全ての異能の天敵であり、異能力者殺しの異能を持つ者
ポートマフィアの重力使いである中原中也と双璧を成す『双黒』の片翼。(デイム)・アガサが注視するほどの実力者であり、悪名高きマフィアの最年少幹部____


時とは早いものであり、何が起こるかは誰にも分からない

伯爵が知るのは、彼が唯一の親友を亡くし、そして何らかの助言を受けてマフィアを辞め、3年間もの間地下に潜って過去を精算し、晴れて武装探偵社の一員となったこと



大きくなったね、と呟いて、伯爵は太宰が差し出した携帯を受け取る。
小さい声だが、圧倒的だ優しさと慈愛が込められたそれは太宰の嫉妬心に駆られやすい心を溶かすには十分だった。
太宰は嬉しそうに微笑むと、一本下がって後ろに控えた。慎ましやかにもなっているらしい。



伯爵は、早速携帯を耳に当てる。
そしてその瞬間、伯爵の表情から、視線から、声音から、慈愛の色が無くなった



『ごきげんよう、ポートマフィアの首領殿。私の声を忘れた訳はあるまい?』

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苺みるくラテ(プロフ) - 更新楽しみにしてます! (7月5日 17時) (レス) id: 00ab994726 (このIDを非表示/違反報告)
きさらぎ(プロフ) - 更新嬉しいです!これからも頑張ってください! (2023年2月25日 22時) (レス) @page19 id: 3316933a16 (このIDを非表示/違反報告)
- とっても面白いです!!続き楽しみにしてます! (2023年1月16日 7時) (レス) @page18 id: b3496c9ef0 (このIDを非表示/違反報告)
瀬羅 - あのー、すみません。乱歩さんの『機嫌』が「期限」になってるな〜と思って報告しました。はい。 (2023年1月2日 8時) (レス) @page17 id: 3328415a9f (このIDを非表示/違反報告)
葵坂(プロフ) - でんでんでんさん» ありがとうございます!夢主はイケメンを目指して書いてます!これからもよろしくお願いします! (2022年12月2日 8時) (レス) id: ea5ee97200 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:葵坂 | 作者ホームページ:ないっす  
作成日時:2022年11月17日 7時

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