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困り事59つ目 ページ12

助けを求めたなら云々とは言うものの、どう求めれば良いのだろうか。病室で一人悶々と考える。しかし悶々と考える間も時は進み、あっという間に翌朝を迎えた。

リハビリを行い、退院の日が決定したと担当医に言われ、それを上司や同期、両親へ報告。退院後の動きについて上司が見舞いついでに伝えに来てくれ、その後仕事を終えた同期の内3人、それに親友が病室に来て、他愛もない会話をする。その間、両親からの反応はほとんど無かった。

いつも通りの和やかな会話。暫く続いていたそれを崩したのはぼくだった。

「──昨日はすみませんでした。その、取り乱してしまって」

「いや、いいんだ。俺たちこそ急に変なこと聞いて悪かったな」

「あの後大丈夫だった?」

松田さんと渉くんが言う。それに大丈夫ですと返すと、しん、となんとも言えない静寂が部屋に訪れる。その少しの間の後、研二くんが柔らかく微笑み言った。

「こうした方が俺たちのこと素直に頼ってくれそうだから、ズルいかもしれないけど単刀直入に聞くな。結、嘘はなしで答えてくれ。結は、“虐待”と呼ばれる行為をされてきたんじゃないか?実家で」

「萩原!」

「班長」
「伊達さん」

確信を持ったその言葉。問いかけという形はとられているけれど、きっともう分かっている。知っているのだろう。笑みを浮かべて穏やかとまで言える表情とは裏腹に、瞳の奥には激しい怒りの情が感じられる。それは研二くんを止めようとした班長も、班長を止めた2人も同様だ。

どこで知った?いつ気付いた?疑問符ばかりが頭に浮かぶ。両親は誰かの目がある所でぼくを貶す事はなかった。打つ事もだ。なのに知っている。どういう事だろう。いや、でもこれは嬉しい誤算だ。ぼくは肯定するだけでいい。そうすれば頼れるみんなが助けてくれる。

「──!」

そう思いながらたった一言の肯定の言葉を言おうと口を開いて、声が出なくて愕然とした。

そこで初めてカタカタと小刻みに身体が震えていることに気付いた。分かっていた。それだけ重い罪を犯そうとしているのだ。信仰している神を裏切るという重罪。恐ろしくない訳がない。

それでもぼくは生きたいと思った。彼らの隣に並び、共に居たい。願わくば、桜を掲げて。だから勇気を出せ。一歩を踏み出せ。力強いみんなの瞳がぼくを見ている。絶対守ると伝えるように。ならば応えなければ。

すう、と息を吸い込む。ようやく出せた声は震えて掠れて酷く弱々しかった。

「──うん」

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きゃすみ(プロフ) - めちゃくちゃ泣きました!!素敵な作品を作ってくださりありがとうございます!! (2023年3月10日 14時) (レス) id: e6f2b24efc (このIDを非表示/違反報告)
セイカ - 更新したんですね!相変わらずめっちゃ良かったです! (2022年12月23日 12時) (レス) @page15 id: bb7bb5003e (このIDを非表示/違反報告)
mikitty(プロフ) - 更新お疲れ様です! (2022年12月22日 21時) (レス) @page15 id: 75972ecbb8 (このIDを非表示/違反報告)
ライキ - うわぁぁぁぁぁぁん!!!結くんーー!!!!!仲間たちを頼ってくれてありがどうぅぅぅ!!!! (2022年12月7日 18時) (レス) id: c3cdfe919e (このIDを非表示/違反報告)
早桃 - めっちゃ好きな作品、、、!最高、、、!これからも無理せずに更新頑張って下さい!応援してます! (2022年11月24日 19時) (レス) @page12 id: f9af42ef58 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:あんこ | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2022年7月9日 19時

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