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困り事58つ目 ページ11

その声が仕掛けた盗聴器から聞こえた瞬間、車内が沸いた。いや、弁解させて欲しい。今日、結の親友であるという高木くんを連れ、高木くん曰く「最後の砦」を破る為、酷く泣かせてしまうかもしれないと言われ、心配だったのだ。

思いもよらず泣き出してしまいそれどころでは無かったが、その泣きながら呟いていた事が紛れも無く両親へ疑念を抱いた事への罪悪感によるもので、松田が収めてくれたから良かったものの、良い方向に向かっていると確信した。

だから高木くんを(姿を見られる訳にはいかないから)先に返し、元より駐車場から聞いていた俺とゼロ、それから他の同期3人と共に室内の音を聞いていたのだ。

暫くはぐずぐずと鼻を啜る音、しゃくり上げる声が聴こえていたが、それも落ち着いて来るともぞりもぞりとベッドの衣擦れの音に交じって深い溜息が聴こえてくる。

すると唐突に、何の前触れも無く、盗聴器から一切の音が消えた。いや、微かな呼吸音等は聴こえるから、彼がぴたりと動きを止めたのだ。

こちらで聴こえる音声を上げる。

微かに早くなる呼吸は、何故だか喜色を感じさせ、それがどうにも歪に見えた。しかしその歪さも続く言葉を聴き、霧散した。

『もしもぼくがみんなに、彼らに助けを求めたなら、そうしたらぼくは──生きていても良いと許されるんじゃないだろうか?』

その言葉を聴いた瞬間、まず後部座席で聴いていた萩原が泣き崩れた。当然だ。6年もの間弟分である彼が虐待されているのではと疑惑を抱き、彼には気付かれないように動き回って来たのだ。盗聴であるため証拠として提出する事はできないが、虐待の確証を得て、そうして出てきた今の言葉。ようやく救う事が出来る。そう考えれば、萩原の苦労も偲ばれるというもの。気持ちは痛い程理解できた。

「いいよ、いいよ、ッ、許可がいるなら、何度でも、何度でも言う…!お前は、生きていていいんだよ…」

「僕たちを選んだって事だよな…?両親の為に死ぬより、僕たちと生きる事を選んでくれた、って事なんだよな…?」

萩原がどれ程苦労してきたか恐らく一番知っているであろう降谷が茫然と呟く。

そして、それに続くように「そうだよ!アイツは生きてぇって言ってんだ!!」と心底嬉しそうに松田が未だに泣いている萩原の肩に腕を回し、俺も班長も「良かった…」とほっと息を吐いた。

生きたいと願ったあの子を死なせてなるものか。

「お前ら」

萩原が口を開く。

「絶対捕まえるぞ!」

「オウ!」

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きゃすみ(プロフ) - めちゃくちゃ泣きました!!素敵な作品を作ってくださりありがとうございます!! (2023年3月10日 14時) (レス) id: e6f2b24efc (このIDを非表示/違反報告)
セイカ - 更新したんですね!相変わらずめっちゃ良かったです! (2022年12月23日 12時) (レス) @page15 id: bb7bb5003e (このIDを非表示/違反報告)
mikitty(プロフ) - 更新お疲れ様です! (2022年12月22日 21時) (レス) @page15 id: 75972ecbb8 (このIDを非表示/違反報告)
ライキ - うわぁぁぁぁぁぁん!!!結くんーー!!!!!仲間たちを頼ってくれてありがどうぅぅぅ!!!! (2022年12月7日 18時) (レス) id: c3cdfe919e (このIDを非表示/違反報告)
早桃 - めっちゃ好きな作品、、、!最高、、、!これからも無理せずに更新頑張って下さい!応援してます! (2022年11月24日 19時) (レス) @page12 id: f9af42ef58 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:あんこ | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2022年7月9日 19時

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