・Realize side_Natori. ページ9
「…ごめん」
俺にかけた第一声はそれだった。
資料室で書類を見ながら、倉橋は不安そうな顔で俯いていた。
「なぁ、」
思わず呼びかけると、倉橋がゆっくり顔を上げた。
やっぱり、昨日三嶋が言ってたことは本当だったんだな。
「……なに？」
「俺怒ってんだけど」
「……ごめん……。」
倉橋に怒ってんのか、自分に怒ってんのか、分からなくなりながら、倉橋の横で書類に手を伸ばす。
お前が心配で来た、……とは言えないから書類をとるついでに来たことにして。
「謝ってほしいんじゃない」
「……うん、……わかってる…。」
「あんな反応、今までのお前は絶対しない。
…なんかあったくせに黙ってたことにイラついてる」
「……。」
本当は、全部三嶋から聞いた。
…でもそんなことは言えない。
だから、自分から聞きたかった。倉橋の言葉を待った。
「…何があったんだよ」
「……。……別に、何も……」
「もう嘘つくなよ。お前のそんな嘘に騙されるわけない。あんなミスまでして」
「……。ごめん。……」
倉橋が資料室を出ようとした。
お前、そうやって自分1人で抱え込んで、誰にも何も言わないつもりかよ。
イラつきが、言葉になって勝手に溢れる。
「辛いなら言えよ、なんかあったなら言えよ、なんのために俺たちがいると思ってんだよ」
「……。」
「言ってくれなきゃわかんねぇだろ、わかるわけねぇよ、人の気持ちなんて」
「…わかってる、だから、」
「でも、わかりたいと思ってる。だから聞いてんだよ」
思わず、熱くなって、言わなくてもいい言葉まで止まらなくなった。
本当に、今言ったの俺か？
自分だとは思えない。
倉橋も驚いてたけど、たぶん、俺が1番驚いてる。
倉橋と目が合って、沈黙が流れた。
「……怪我したのが原因なのかよ」
「……。…わかんない、…今回のは、ほんと、わかんなくて、……。」
「……今回のは？」
「……あ、あのさ、……。三嶋くんにほんとに何も聞かなかったの？」
「え？」
「何があったとか。…」
これ以上隠すのは、無理だな。
小さく息を吐いた。
「……ごめん、聞いた」
「……やっぱり。……。」
倉橋の方を見るけど、その表情から本心は全く分からなかった。
倉橋が口を開きかけた。
その時、物音がして入り口の影から横峯が出てきた。
「……あ、」
思いがけない邪魔にもう一度、ため息が出た。
・Wound side_You.→←・Upset side_No.
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作者名：シェリー | 作成日時：2022年3月2日 0時
