・Wound side_You. ページ10
名取先生に自分のことを言いかけた時、横峯先生が入り口の方から出てきた。
「あ、……あはは、…ごめん」
「横峯先生……」
「聞くつもりじゃ……なかったんだけど……」
そう言ってるくせに思いっきり目が泳いでる。
聞くつもりだったんだろうな……。
ま、いいんだけどね。
「別にいいよ。…どう考えてもおかしかったのは私だ……し」
物音がして奥を振り返ると、奥にあるストレッチャーの影から灰谷先生が出てきた。
「お前もいたのかよ……」
「あ、…あ、ごめん……」
「いいよ。……変な心配させてごめんね。…じゃ、私行くね」
よく考えたら、話す理由もないし。
私が克服すればいい話だし、……この人たちに自分の弱みを見せる必要は無い。
咄嗟に逃げようとしたら、名取先生に腕を掴まれた。
「お前、何隠してんだよ」
「そうだよ！倉橋先生！…私たち心配してるよ」
別に、そんなこと頼んでないじゃない。
……素直に、率直に、…そんなこと言える横峯先生が何だか今は直視できない。
「……ごめんなさい」
こういう時、素直に「助けて」って言えない自分に辟易する。
でも、……私にはそんな勇気はない。
──私は、これまでそうやって生きてきたから。
名取先生の温かい手を振りほどいて出口に向かった。
3人とも、気を使ってくれたのか、そのまま放っておいてくれた。
軽く頭を下げて、医局に戻った。
医局に戻ると白石先生が自席にいて、心配そうな顔でこっちを見ていた。
資料室の出入口と白石先生の席はちょうど真っ直ぐ先だから仕方ないのかもしれないけど……。
「……倉橋先生、……あのさ、」
「すみません、ラウンド行ってきますね」
白石先生も心配してくれてる。
私が心配かけてるだけだけど、…分かってるけど、
今はその心配がかえって私の不安を掻き立てる気がした。
駆け足で書類を机に置いて、医局を飛び出した。
───────────────
───ICU。
今朝搬送されてきた、……私がラインを取れなかった患者さんは、安定している。
20代のその女性は、
…助けて欲しくて必死だったんだろうな…。
でも私はその手を振りほどいた……。
最低だ。…私は、医者失格だ。
「倉橋」
「……あ、はい！」
慌てて顔を上げると緋山先生が目の前にいた。
「北野さんのCV抜去もお願い」
「分かりました」
・Uneasy side_Yokomine.→←・Realize side_Natori.
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作者名：シェリー | 作成日時：2022年3月2日 0時
