28. ページ29
.
影山が今回自らが率いる帝国学園のサッカー部と雷門を戦わせたのには、伝説のエースストライカーを引きずり出し、そのデータを取るという目的があった。だから、雷門のその他のプレイヤーは取るに足らないもので、ベンチにいる人間になど目を向けようともしなかったのは言うまでもない。
しかし、ハーフタイムが終わり後半が始まる直前、影山は見向きもしなかった雷門側のベンチに、自らに力を貸している悪の権化のようなあの男が言っていた存在を偶然見つけてしまったのだ。
容姿も雰囲気も、遠くからでも十分に感じ取れる＊＊＊特有の独特なオーラも、何もかもが情報と一致している。
ついに現れた。
｢あの小娘が……そうか｣
全てを理解した影山が、色素の薄さが目立つ見も知らぬ少女に覚えたのは哀憐だった。同情心など捨てて生きてきたはずなのに、彼女が可哀想だと心から思った。
何の力も持たないくせに、知らないうちにその身に余る光を受け、それを彼女には知る由もない闇に飲み込まれようとしている。まるで慣れ親しんだ夜闇の中、雲に隠れた朧月のようではないか。
本当に哀れだ。───に気に入られさえしなければ、＊＊になることなく平凡に生きていられただろうに。
ここまで考えてから、今更だと影山は思い返す。あの男の言う通りならば、───には既に彼女のすべては決まっていた。彼女を取り巻く運命の歯車は、既に動き始めてしまっているのである。
◇
｢……？｣
｢A、どうかした？｣
｢うーん……なんでもない｣
急に気分が落ち着かなくなり周囲を見渡すが、怪しいものは何もない。不思議そうに尋ねてくる秋に誤魔化すように笑いかけ、気持ちを切り替えるとフィールドに目を遣った。
一体どのような後半戦になるのか。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 137人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：おひめ | 作成日時：2022年7月14日 17時
