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21時を過ぎ、そろそろお開きにしようと皆はA奢りのスポドリを口にする。A自身もタオルで汗を拭いながら喉を潤していると、風丸に話しかけられた。
｢スポドリ、俺の分までありがとな｣
｢どういたしましてー｣
特訓お疲れ様、と愛想良く返事をしたAと、先程円堂に向けて何発か必殺シュートを放っていた彼女を比べると、随分雰囲気が違うと風丸は思う。
シュートを打っているときの彼女からは、清らかで気高い水龍を思わせるようなプレッシャーがひしひしと伝わってきたが、今は至って普通の可愛らしい女の子、という感じだ。
｢すごいよな、お前の"月読のテンペスト"｣
｢あ、見てたんだ｣
｢気づいてなかったのか？｣
｢集中してると周りが見えなくなるみたいなんだよね〜。それで、よく幼なじみに怒られちゃう｣
その幼なじみとやらを思い出したのか、くすくす笑うAをじっと見つめる。色素が薄い彼女は、まるで夜闇に浮かんでいるように見えた。
如何にも月が似合う子だと思う(現に必殺技も、彼女が今つけている髪飾りも見事に月モチーフだ)。
実際に見たAは、学校中の人間が"天使"と呼ぶのも頷ける愛らしさと神々しさを兼ね備えていた。彼女本人はそう呼ばれていることに気づいてもいないが。むしろ、他者からの評価を一切気にも留めていないのが天使らしい。
でも彼女は決して可愛いだけではない。誠実で心優しいのが雰囲気にも顔立ちにも滲み出ているし、サッカー部員や自分への細やかな気配りと、円堂の特訓のための必殺技の配慮は、一朝一夕で成し得るものではない。それなのに部員でなければマネージャーでもないときた。
自分とは全く無関係の人のためにここまで気遣いができるお人好しな女の子を、風丸は他に知らない。
｢その必殺シュート、威力の調節ができるのか？｣
｢あ、染岡に聞いたの？ 一応できるけど、そんなに器用じゃないから細かくはまだ無理なんだ｣
｢でも、普通は弱く調節するのって難しいんだろ。吹っ飛ばされた円堂が怪我しないようにもしてたし。やっぱりすごいよ、お前｣
｢えへへ、そんなに褒められると照れるな。ありがと、風丸｣
素直で可愛い。まさに天使だ。
自分の思考に自分で驚き、風丸は熱くなった頬をスポドリで冷ました。
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月と風の力を使ったシュート技。月と風のうち、風の威力を上下させることで必殺技そのものの威力の調節ができる。
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作者名：おひめ | 作成日時：2022年7月14日 17時
