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｢……ボールを蹴ってしまった｣
｢蹴ったね〜｣
｢夕香と約束したのに｣
豪炎寺は正義感が強いから、あの状況を放置することは出来ないとわかっていた。それが豪炎寺という人間なのだ。
しかし、夕香とサッカーの板挟みになる豪炎寺を見るのは何度目だろう。サッカーボールやサッカープレイヤーを目にする度につらそうにする姿は、あまり見たくないのだけれど。
｢膝枕でもしようか？｣
｢……唐突だな｣
｢悩んだときはとりあえず寝たら何とかなるのが修也だし｣
｢俺以外にするなよ｣
｢しないしない。幼なじみ特権だよ、わたしの膝枕｣
どうする？ と悪戯っぽく笑うAに自然と豪炎寺も笑みを零した。
｢じゃあ、頼む｣
｢おいでー｣
ぽす、と小さな音を立てて豪炎寺がAの膝枕に横たわる。精神的な疲れからか、すぐに睡魔が襲ってきた。本当は、父と約束したから、勉強をしなければならないのだが。今は休んでもいいだろうか。
｢……A｣
｢なあに｣
うとうとしながら見上げると、Aは柔らかく目を細めて微笑んでいた。
まるで、優しく見守ってくれる天使みたいだ。同い年とは思えないくらい、Aの笑顔は優しさと包容力に満ちている。彼女の表情は、どうしてこんなにも暖かいのだろう。
まあ、いいか。
｢ありがとう｣
｢どういたしまして｣
おやすみなさい、良い夢を。額に一瞬の温もりを感じて、目を閉じた。
幸せだと、漠然と思った。
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作者名：おひめ | 作成日時：2022年7月14日 17時
