【アナタシア】キスの意味【短編集】

執着 ページ14

ふみろくside


隣で何かが動いた気がして目が覚めた。


目の前には見慣れない天井。


起きたばかりの時は頭が働かず、せいぜい分かるのは自分がベッドの中にいるということくらいだ。


俺、何してたんだっけ…


隣を見ると下着すらも纏っていないめいが規則正しい寝息を立てている。


一方俺もめいと同様の格好で、寝る前まで何をしていたのかは容易に思い出せた。


時間を見ると朝の4時で結構早く起きてしまったみたいだ。


でも、めいにとってはかなりギリギリな時間かも…


ふ「めい、めい起きて」

『ん…何時いま…』

ふ「もう4時。早く帰んないと…“旦那さん”が起きちゃう」

『え、やっば。起こしてくれてありがと』


そそくさとベッドに散らばった下着を付け始める彼女。


早く着替えないとという気持ちが強すぎて、上手く下着のホックが付けられてない。


ふ「付けてあげよっか」

『あー、ごめん…付けて』

ふ「ん、」


そうは言ったものの付けるのに手こずっていると、少し馬鹿にしたような声で「慣れてなさすぎ」と笑う。


そんな彼女も好きで、愛しくて。


ホックを付けた瞬間に優しく後ろから抱きしめる。


ふ「…慣れてない男はいや？」

『んーん。逆にすき』

ふ「俺のことはすき？」

『……すきだよ』


今の間は何だったんだ。


いや、気にすんな。気にしたら負けだ。


めいには旦那がいる。


そんな彼女に好きって言ってくれるだけ幸せじゃないか。


俺はずっとめいのことが好きだよ。


例え、めいにもう将来を約束した相手がいたとしても。


そんな想いを込めて彼女の白い首筋にキスを1つ落とした。


キスマークは付けない。


付けてしまったらこの関係が終わってしまうから。


『…キスマ付けた？』

ふ「付けてない。付けたらバレるだろ？」

『うん…分かってんじゃん』


彼女の所はいわゆる【政略結婚】というやつで。


浮気がバレようもんなら親にまで影響してしまう。


それは避けたい、とこの関係(不倫)を始める前に彼女から念を押された。


ふ「もう出た方がいいだろ。間に合わなくなる」

『うん。分かってる』

ふ「ホテル代はー…俺が払っとくわ」

『ごめんね、ちゃんと返すから』


ほんとかぁ？なんておちゃらけて返すと信じてよって笑って言う。


こんな普通のカップルでもできそうな会話を俺たちは崖っぷちの状態で交わしている。


神様ってやつはとことん、不公平だ。

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