introduction ページ1
幼い頃に、こんな話を聞いたことがある。
「……この世界のどこかに、死んでいった人魚の悲しき歌が響く入江がある。その入江には、曰く付きのおたからが隠されているらしい」
……人魚。それは世界中の海に住まう神の子と呼ばれる誇り高く美しい種族。その美しさはあらゆる人間を魅了し、またその歌声は聞いた者の心を奪い、そのまま海の底へ沈められてしまうという逸話を持つ。
海の上で長い事過ごしていれば、嫌という程に聞いた噂話だ。
しかし人魚は同族以外にはとても排他的であり、何より警戒心が強いため人間の前には滅多に姿を現さない。昔は割と人間とも友好的な関係を築いていたらしいが、ここ数百年、目撃情報が全くと言っていいほど上がってこない。その為、人魚はいつしか"幻の生物"と呼ばれるようになった。
そして、人間たちがこぞって人魚達を追い求める理由の一つ。
それは、彼らの肉体に秘められた秘密だろう。
一つ目は人魚の鱗。
美しく煌めく色とりどりの鱗は美術的価値が極めて高く、かなりの高額で取引される逸品であり、更に彼らの鱗を使用した装飾品は海の男達の御守りとしても重宝されている。
次に、人魚の血。
彼らが流す血はもちろん人間のそれとは違い、飲めば永遠の美を授かると言い伝えられている。また、万病に効く奇跡の力を持つとも言われる。
そして最後に、これが一番皆がこぞって欲しがるものだろう。
……そう、それは「人魚の肉」である。
彼らの肉を食べると、その肉体は不老不死へと変貌する、とされる。
短い生を懸命に生きる人間たちにとっては、永遠の命というものは誰もが喉から手が出るほど欲しいものなのだろう。"死"という、形のない恐怖に常に追われながら生き続ける、俺たちのような"人間"にとっては。
━━━━━俺は、人魚なんて空想や伝承上の存在でしかないと思っていた。
……アイツと出会うまでは。
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作者名:アマノ | 作成日時:2020年8月1日 9時