La mer (ページ2)

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人々の活気で賑わう港町の裏通りにある、こぢんまりとしながらも賑やかな声が絶えない、知る人ぞ知る人気の酒場(バール)。薄暗くなってきた外の景色を、酒場から漏れ出す煌びやかな灯りが照らしだし、更には外にまで聞こえてくる大歓声に誘われ、たまたま通りがかった人々の足を酒場へと向かわせる。

｢深澤中将！お待ちください！｣

小規模ながらもなかなか複雑に入り組んだ裏通りを、純白の軍服を纏い眼鏡を掛けたいかにも気難しそうな男が迷いなく、そして足早に歩を進める。必死になりながら彼の後ろを着いて行く部下の声にまともに耳を傾けることも無く、男は入り組んだ裏通りを進み続ける。彼がようやく足を止めた先は、人々の賑やかな声が絶えない酒場。
青年は店内に入る前に懐から革張りの手帳を取り出し、ゆっくりとページを捲る。そのページには、走り書きながらも達筆な字で、｢人魚捕獲事件事情聴取リスト｣と書き込まれている。

｢……くだらない。人魚なんて生き物は空想上の存在にしか過ぎないというのに、上層部は一体何を考えているんだ｣

心から失望したかのような声色で呟きながら片手でパタン、と手帳を閉じ、再び懐にしまい込みそのまま首にかけられているお守り代わりの紫貝のネックレスにそっと触れてみる。そして青年はそのまま酒場へと足を進めていく。

｢人魚なんて、いるわけが無い｣
彼の呟きは、人々の明るい歓声に溶け込み誰にも聞こえることなく消えていった。