隠喩 ページ2
NO side
高野にユノが憑依した。
高野の服はいつの間にかスーツに変わっていた。
座っていた高野…否、ユノが立ち上がった。
その時、誰もが恐怖を覚えた。
それは、幾つもの修羅場をくぐった花魁や椿でさえも。
「(…信じられん…！
これはAの殺気…？…否、怒りか)」
親友を殺された怒りと、その復讐。
それらに支配された高野の目。
それとは別に、目の色自体が変わっていた。
濁った黄色。
その時の高野は、己の欲に忠実なオークだった。
「……殺す」
ユノはただ一言、そう呟くと武器も持たずにヘラに向かって駆け出した。
愚かな、とヘラは思った。
確かに、武器も持たずに敵に向かって駆け出すのは愚の骨頂だ。
だが、ヘラの予想に反してユノは殴った。
武器で。
「…がっ、はあっ、バカな！
武器は持っていなかったはず…！」
「…バカなの？
Aの魔法を使ったに決まってるじゃん」
バットで顎を思い切り殴られたヘラは、脳震盪になっていた。
視界が揺れ、まともに体を動かせない敵は、もう敵ではない。
「…雁夜を生き返してくれるなら、考えるよ？
貴方をこのまま生かすか、殺すか。
Aは殺すって言ってるけど…ね」
「…貴様とて、わかっているんだろう？
どんなイレギュラーな存在でも、死んだものは行き返させることは出来ん、と」
「でも、イレギュラーな存在自体が僕達なんだよね。
…Aは、きっと雁夜を生き返らせるよ」
最後は独り言のように呟き、バットを刀に変えた。
そして、ヘラの両腕を切った。
痛覚が存在しない神は、叫ぶこともせず、ただユノをしっかりと見つめていた。
「…天を舞い散る純白の羽よ。
地獄を許しを請い彷徨う亡者の魂よ。
今、天地がひっくり返ったならば。
【逆転魔法 天地逆転】」
ユノは、魔法を発動させてその場にいた神を全員天界に移動させた。
その場に残ったのは、人間と吸血鬼だけ。
ユノやリノ、花魁なども天界に一時的に帰ったのだ。
高野は、神が憑依したリバウンドで切り傷が複数できていた。
覚束ない足取りで歩き、やがて雁夜の目の前まで来た。
血が滴る震えた腕で、手のひらで、そっと雁夜を強く抱きしめた。
「…っ、ごめん、ごめん…！
ヘラのあの時の真意に気づいてれば良かった。
いや、早く倒してればよかった。
…っ、どちらにしろ、ごめん…っ！」
高野は、重く、冷たくなった親友を再び強く抱きしめた。
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作者名：リリムゥ | 作成日時：2018年5月13日 17時
