▶︎ ページ10
．
いつからだろうか、貴女が『妹』じゃなくなったのは。
親から言われて呼び捨てを辞めたとき？駿貴くんから須貝と呼ばれるようになったとき？敬語を使い始めたとき？標準語の練習をはじめたとき？
明確な境界はわからない、そのくらい俺と彼女の人生は常に隣り合っていて、学校で友達と会うよりもこの家で彼女の世話役と従事している時間のほうが長い。
「しんど…」
自室に戻ってつくため息。
良き兄として、信頼のおける世話役として、彼女のためならこの命つ
ご褒美だなんていくらだってしてあげたい。
わがままだってもっと言ってほしい。
こちらが差し出せるものは全部捧げる、見返りはいらないから少しでも長く俺の隣で笑ってほしい。これが俺の"わがまま"。
…
「おいしかったね！」
ケーキ屋を堪能した(彼女が頼んだケーキは1個で俺が頼んだ3種類をちょっと食べた)彼女と腹ごなしにコーヒーショップに入った。
「満足しました？」
「うん！」
頼んだホットコーヒーを両手で持って先程までのケーキに思いを馳せている。
「頑張りましたもんね」
「うん！…でも、やっぱり意味なかったかもしんないんだよね」
さっきまでの笑顔がどんより曇りだす。
「そんなこと、」
「勉強したってさ…意味ないんよね…」
「A様…」
「…ごめんね、暗い話しちゃって。あ、さっきのケーキでさ…」
話題を無理やり変えた彼女にこれ以上俺が追及できる権利はない。俺ができるのはまたケーキの話をするだけだ。
大学卒業後、彼女は婚約者との結婚が決まっている。お相手はA家が運営してるグループの取引先の社長の息子。先方は次男で婿養子になる。
大学卒業後、彼女は家庭に入ることを強いられるだろう。相手の男は俺の2個下で何度か会ったが少しモラハラな気がしている。
少し時代錯誤っぽいところもあって彼女は会うたびに「僕は毎日日本食が食べたいんです、店の惣菜は好かないな」「流石に三つ指ついてとは言わないけど亭主のことは大事にしてほしいですね」だのと言われるらしい。
Aの両親はどちらもそれぞれ別の事業をやっていて彼女もそんな2人を見て育ったため自立と自律を常に意識して生きてきた。
一度言い返してみてはと提案したことがある。しかし彼女は首を横に振って、
『価値観はみんな違うものだから、お婿さんとしてくる人だから少しくらいしたいようにしてあげたい』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 69人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あまさく | 作成日時：2023年11月8日 20時
