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ほんの数メートル先では楽しげな声が聞こえてくるのに、私とゴンくんの周りだけ別な空間というか隔たれてるというか。
「はじめて、、なんでそれが『好き』だって思うの」
「それは、、その、でも…」
途端しどろもどろになり沈黙してしまった彼とは対照的に私はだいぶ落ち着いていた。先ほどの彼を分析、とまではいかないけれど今一度思い出してみる。
『A、、Aさん』
名前を呼ばれただけだがそこにはある既視感があった。
元カレたちが私を床に誘うときの声のトーンと一緒だ。目があった時に見え隠れした恋慕も執着が垣間見れて、彼の視界には当たり前だが私しか入ってなかったようだった。
つまりはまぁ、彼の感じた感情が間違いである可能性はとても低いということ。
「ゴンくん」
「は、はい」
「付き合ってみよっか、私たち」
「は、はい!!」
おかしな話だ。おそらく人を好きになったことが今までなかった人に少し説教をしてたのは遠い記憶になった。即答する彼もあきらかに奇特な人間である。
こうして始まった私たちの交際は表向きではどこにでもいるカップルなのだろう。しかし明らかにお互いの矢印の重さ大きさは異なっている。
「ただいまー」
玄関を開けてこちらに向かってくるペタペタとした足音。
「Aさんおかえり!ご飯できてるよ」
「ありがとー、いい匂い」
適当に手を洗ってキッチンに向かう。
「カレー?」
「うん、上手くできたと思う、っ、、ちょ、んっ」
「んー?、、ふふっ、ん」
楽しげにカレー鍋を混ぜる彼の首筋に唇を這わせる。後ろから腰に手を回してゆっくりと引き寄せていく。
「ねぇ、、ごはん、」
「カレーは一晩寝かせた方が美味しいよ」
「そうかもだけど…」
「私、ゴンがほしい、ダメ…?」
そういうないなや乱暴に唇に噛み付いてきた彼の首に手を回して深く吸い付く。互いに舌を絡ませながら時々吸ってみたり舐めたりして口内を味わう。
「お風呂はいいの…?」
「明日一緒に入ろ」
後ろ手で器用にカレー鍋の火を止めて蓋を閉めたゴンは私を姫抱きにしてそのまま向かう先はベッドだ。
彼の人生初の体験は私でしかも付き合ったあの日だった。その日以来、まるでペットと飼い主のようなパワーバランスが私たちにはある。
3大欲求のどれかが満たせたらそれでいい。カレーはどうせ明日の昼食べる。
あーあ、これじゃどっちが中毒かわかんないね
『[A]ddiction』
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作者名:あまさく | 作成日時:2023年11月8日 20時