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「ゔっ…」
「ほら、開けたからとりあえず立って、中入ろ?」
「ふぐぅ…」

 私の両手を引っ張って無理やり立たせて家の中に押し込まれた。
 靴脱いでー、とか上着脱いでーとか幼児をあやすように言われたけど別にそこにイライラするとかではなくて、むしろ癒されるというか溜まっていたものが溶けるような。

「はい、Aちゃんここ座って」
「ん…」

 私をソファに座らせてキッチンに向かった彼。私の家だけどどこに何が置いてあるか大体把握してる問ちゃんはテキパキと何かをしている。
 お待たせ〜と言いながら持ってきたのはコーヒーだった。

「ありがと…」

 鼻に抜ける香りが神経を通して全身に駆け巡る。
 ようやく落ち着いた気がした。

「おいしい…」
「よかった」

 私の隣でニコニコと笑う問ちゃんにまた目頭が熱くなっていくのを感じた。

「んもーー!」
「ええっ!?今度はなに〜」
「…キレそう」
「ええっ!?」

 私の突然と『キレそう』発言に当たり前のように動揺してる問ちゃんだけど、これに感しては問ちゃんが悪いと思う。理由はまあ、理不尽だけど。

「あのね、今日ぜんっぜんいいことなかったの」
「うん」
「頑張ってなんとか帰ってきたんだけど」
「鍵忘れちゃったと」
「ん」

 でも頑張ったんだね〜えらいえらい、と頭を撫でてくれる問ちゃん。

「問ちゃんずるい」
「ええーなにが?」
「スパダリすぎ、そういうとこ。めっちゃキレそうムカつく」
「理不尽!」

 私の肩に頭を乗っけてあうあうしてる問ちゃん、は この短時間でかなり私に貢献したはずなのにキレそうと言われたらそりゃそうだ。

「問ちゃんいなきゃ私ダメってなっちゃいそう、ダメな自分にもキレそうなの」
「えー!いいじゃんダメになってよー」
「そうはいかない」
「僕はAちゃんがいないとダメだよ?」

 一つ下の恋人は甘え上手なクイズ馬鹿なのに。ハマってしまったら抜け出せないってやつ?

「うぅー」
「こんどはなに〜」
「問ちゃんのこと私好きすぎるよ」
「えへ嬉しい」

 きゅるきゅるの上目遣いでこちらを見上げるいたずらっ子のしたいことはなんとなく察することができる。
 私からのキス待ち顔だ。

「んー」
「ん?」
「んー!」

 目をつぶって唸る恋人のおでこに一つキスをしてどんどん下に移動していく。

「…口はしないの?」
「はいはい」
「えへ〜」

 緩む頬、さいっこうにかわいい笑顔。

『スキすぎてキレそう』

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作者名:あまさく | 作成日時:2023年11月8日 20時

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