棲みついた nb ページ22
．
「さみー」
季節は冬真っ盛りで毎日耳が刺されるように痛い。
屋外にいる時はマフラーを限界まで上げてるからたまに息苦しい。
「ノブおつかれ」
「おつかれ、乾」
「ノブくん、お疲れ様」
「っあ、おつかれ、さまです…」
オフィスについてからデスクでコートを脱ぐなりして、乾に話しかけながらも身支度を整えてたら耳に入ってきたのはここ最近の俺の悩みの元凶とも言える人で。
「外寒かったよね、コーヒーいれるけど飲む？」
「は、はい」
「わかった、落としきったら持ってくるね。乾くんは何か飲む？」
「俺は大丈夫です、ありがとうございます」
「いえいえ」
そう言って給湯室に消えていった存在に思わず深く息を吐いてしまった。
「ノブわかりやすすぎな」
「うるさい、だって急だったし。あ、お礼言ってない…」
「持ってきてくれるとき言いなよ」
乾に茶化されながらも席についてパソコンを開く。
AAさんはほんの2週間ほど前に志賀さんが連れてきた人で、もともと伊沢さんと面識があったらしい彼女はここで主に校閲の仕事をすることになった。
初めて会ったときは今よりも気持ち程度だけどそこまで寒くない日で、肩ぐらいまでの髪とスラッとしたシルエットが似合うタートルネックのワンピースを着た彼女をオフィスで紹介されたとき、俺は一目惚れしてしまった。
だってすっごいタイプでかわいらしいのにきれいな人だったから。
乾はもちろんのこと、直井やそれこそ伊沢さんたちにもなぜかバレていて(たしかに態度に出やすい)、当の本人は全く気づいてないものだから俺は気が気じゃない。
「ノブくんどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
今みたいに彼女の一挙手一投足に俺はかなりあからさまに動揺してしまう。彼女が入れてくれたコーヒーが入っているマグをじっと見てしまって乾に笑われた。
出会って2週間、されど2週間、俺はそろそろ何かしらのアクションを起こさねばと思っていた。
伊沢さんたちの協力(？)のもと、彼女に恋人がいないことは確定しているがうかうかしてはいられない。
1週間後、あのエックスデーがあるからだ。
俺は多分オフィスにいる面々の中では彼女との会話量は少ない方で、でも今みたいに話しかけてくれるときはパニクって何話したらいいかわからなくなってしまう。
でもそんなこと言ってられない。
俺は自分の仕事が終わった後、時間を置いてとあるタイミングを見計らっていた。
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作者名：あまさく | 作成日時：2023年11月8日 20時
