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熱に浮かされ、うわごとのようにつぶやかれたその言葉に胸が苦しくなった。
「なんでいいとか言うんだよ…よくないよ、、」
「航平…」
「ぎゅーしたい、、ちゅーもしたい、逢いたいんだよ俺は…Aはもう俺にはあいたくない…？」
切羽詰まったように紡がれる言葉に私は目頭が熱くなってきた。
私だって、逢いたいよ…。
でも今の私は彼の隣に立っていい女の子じゃないと思ってしまう。
申し訳程度の化粧や流行に対するアンテナはきっと新しい刺激を受け日々成長している彼の隣に立つことで大きなコンプレックスになっていくような気がして。
でも、でも…
「A…俺のこと、もう好きじゃなくなっちゃった…？」
「…ううん、」
「よかった…」
ほっとしたように呟かれたそれに彼に告白された時のことを思い出した。
ガチガチに緊張していて、私がOKを出すと途端に破顔させて安堵した航平。
『よかったぁ…』
あぁ、同じ顔してるんだなって思った。
私の知ってる航平の顔だと思った。
「航平、」
「ん…？」
「夜には着くから、鍵だけ開けといてもらえる？」
「は」
そう言い捨て私は電話を切った。すぐにまたかかってきたけど赤いボタンを押して着拒にして、学校を飛び出した。今は昼過ぎ、午後はサボろう。
彼の元へ向かう道中もたくさんのメッセージがきたが途中でパタリとなくなった。きっと眠ってしまったんだらう。
あいたい、会いたい、逢いたい
「ほんとに…きた」
「マスクちゃんとしてきたよ」
空はもう暗くなってて、住所は知っていたけど一度も行ったことはなかったから無事着けてよかった。
押しかけ女房さながら夕飯を作って食べた。薬が効いたのか少し元気になったと言う彼にほっとする。
「思えば私っていつも受け身だったなって。だから航平に逢えないと寂しいのは自分から何かするってことがなかったからなんだなと思ってさ」
「もっと言って、わがまま。頼りないかもだけど」
「このままの私でも…好きでいてくれる？」
「当たり前じゃん」
溢れた涙は彼の指で拭われた。
航平からネックレスをもらった時、私はプレゼントとするものに意味があることを知った。
あの歌のようにいつかハンカチをねだろうと思っていたけどまだ先になりそう。
これからまた同じことが起きないとは限らないけど、今日は違う。
私は首にかかったリングをぎゅっと握りしめた。
『木綿のハンカチーフ』
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作者名：あまさく | 作成日時：2023年11月8日 20時
