【Q/K】ジャンル:プレイリスト【短編集】 (ページ19)

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　彼の胸に顔を埋めて鼻で息を吸い込むとえも言われぬ多幸感に包まれる。

　航平、航平、航平

　あぁ、でも、知らない匂いもするなぁ。
　別に女性ものの香水の匂いとか、柔軟剤が違うとかそういうのじゃない。
　でも、私の知らない航平なんだなって思ってしまった。

　彼の首元に光るチェーンを見ないようにして、自分のはどこで燻ってるかなと考えた思考を振り払うように話題を提示した。

「夕飯、なにがいいとかある？」
「なんでもいいよ、あ、こういうのって困るよね」
「え、なんで、そんなことないよ」
「大学の友達が彼女にそう言ったら怒られたらしくって、お前は気をつけろよとか言われた」

　ははっ、と笑い飛ばす航平に今日は外食にしようと提案した。近くにある別にどこにでもある系列店の名前を出せば、いいよって言ったので6時くらいになったら出かけようかって話した。

「あ、これ」
「ん？」

　動画を見ていると間に差し込まれた広告はインフルエンサーがリップを紹介しているものだった。

「なんかこれ人気なんだってね、大学の子たちも言ってた」
「あー、たしかに使いやすい色ではあるしね」
「そうなんだ」

　ふーんと流し見をする航平。別に口紅自体に興味はなかったようでスキップボタンを押した。

　私も持ってるとはなぜか言えなかった。じゃあつければいいじゃんって言われたら、なんだか彼の大学の友人と比べられてるように思ってしまいそうだったから。

　高校時代、メイクには人よりも興味なくて彼とのデートの時なら少しラメを乗せるくらいだった。
　それだけのことなのに今日いつもと違うね、なんて些細なことに気づいく航平に浮き足だった。

　今私はすっぴんで、彼と周りにはきっと指輪に埋め込まれたジルコニアよりも輝いている本物の宝石みたいな女の子たちがたくさんいて、そんな中に紛れ込むビー玉なんてきっと弾かれてしまう。
　それなら最初から磨かれることのない石ころになって同じ場所に並べられないようにすればいい。でも、彼に捨てられるのは、つらい。

「…ごめん、やっぱりデリバリーにしない？なんか、調子悪くて」
「え、大丈夫？どっか悪いの？」
「多分、寝不足なだけだから…」

　心配そうにこちらを伺う彼に罪悪感が募る。
　夜、適当にご飯を頼んで2人で食べた。
　その夜、気を遣ってくれたのか航平は床で寝るからと言ったのではじめて使う来客用の布団を出した。

　シングルベッドはいつもよりも広く感じた。