恋人よ ko ページ14
．
「…っA！」
始発の電車が止まる駅の改札前、俺は待ち焦がれていた人影を見つけ思わず大きな声を上げてしまった。
「航平っ！」
こちらにだんだんと朝日が差し込んできたが西の空はまだ暗い。白い息がどんどんこちらに向かってくるので俺もたまらずに走り出す。
「…っ」
こちらに走ってきた人影を抱き留める。腕の中で息を切らせているのは紛れもなくAで俺は力を緩めることはできなくてぎゅうぎゅうと抱きしめてしまった。
「…来てくれたんだ」
「うん、、次いつ会えるかわかんないしね…」
俺の胸に顔を埋めながら言うもんだから声はくぐもっているんだけど何を言ってるかは分かった。
「ちょくちょく帰ってくるよ、ゴールデンウイークとかさ」
「へへ…どうせ課題に追われてるよ、」
おちゃらけてそういう彼女に申し訳なさが募る。
今日は俺が地元を離れて上京する日、Aは幼馴染で俺の恋人。
俺が上京するって言った時も航平の好きなようにしたらいいよって言ってくれた。彼女はこのまま地元の女子大に進学する予定で、反対されるか別れ話をされるかどちらかだと思ってたから。
「…向こうはきっとこっちにないものいっぱいあるからさ、おもろいもんあったら送るわ」
「期待しないで待ってる」
「んだと〜」
持ってた荷物をどさっと落としてAの顔を掴んだ。さっき走ったからか、気温のせいなのか、ほっぺたはりんごみたいに真っ赤かで申し訳なく思う。
「…今日、来てくれてほんと嬉しい…」
「うん、、」
昨夜、と言っても数時間前だがダメ元で連絡して本当に良かった。
Aは昔からかわいくて、あどけない表情はいつも俺を惑わせた。別れたくなかった、別れることにならなくてよかった、だって俺と別れたら絶対すぐに誰かに捕まっちゃうから。
白い吐息が舞うロータリーでお互いどちらかともなく目をつぶって唇が重なる。そこはじんわりと熱を持っていってほんの一瞬だけ寒さを忘れた。
「…もっかい…」
「ん…」
ちょっとでも長くこの時間を続けていたくて、俺はまたキスをした。上唇をちゅっと吸えば途端体がこわばってビクッと震えた、かわいい、好き。
「ん…ん、、、」
「ん、、こ、、へ、もう…」
名残惜しくも彼女に胸板を押されて唇を離すと、時間が、と言われた。時計を確認するともう行かねばならない。
「A、いってくるね」
「うん、いってらっしゃい…」
俺は荷物を抱えて改札に向かった。
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作者名：あまさく | 作成日時：2023年11月8日 20時
