▶︎ ページ13
．
夜明けは近い、すなわちそれは私がまた貴方を待ち焦がれる日が始まってしまうということ。しかしそれもまた有限ではないのは彼がまた来てくれる保証がないということ。
前回来てくれた時に告げられた言葉は未だ私の首を絞めるように絡みついている。
「半年後、籍を入れるんだ」
そう淡々と、悲しむことも怒ることもなくひとつの事実としてそう告げた。
「上司がね、早く身を固めろってさ。相手は貴族のご令嬢様で、一度会ったけどいい人そうだった」
何を言われたのかよくわからなかった。嬉しそうに言うわけでも私と会えなくなることを嘆くわけでもなくそう告げた河村様はあいも変わらず私に口付けた。
花魁なんて所詮遊女でしかない、そう突きつけられた出来事だった。普段から表情は読めないけれど私を抱いてくれる時の愛しそうな顔はなにより私を勘違いさせるには十分なものだった。
私の花は摘み取られてしまった
それでも店にくる彼に怨恨など抱けるはずがないり蝶は花がないと生きられない、彼を恨んだところで私は彼を求めてしまう。それが彼の都合でしか逢えないとしても。
明くる朝、温もりは消えていて机に紙が置かれていた。
【また来る】
「っ……」
私しかいない
彼はこの店を兼ねてより贔屓にしてくれていてこの子のことも可愛がってくれている。
「なんもないよ…目に塵が入っただけよ…」
心配そうな彼女にはそういう他なかった。常に気高く客に対しても舐められてはいけない花魁が人前で泣くなんてあってはならいことなのに、まして1人の男に恋情を抱くなど。
どこか遠くの方でなにやら祝いの声が聞こえる。どこかの遊女が身請けされ、それを祝う声なのだろう。
叶わぬ夢、抱いたことが罪だった。
でも、いつか、貴方となら堕ちていきたいと思っていた。
虫籠の中の蝶は自分で花を選ぶことはできない、花は摘み取られたのではない、もとより私が籠の中にいただけなのだ。
「なんも…ないよ」
民衆は私たちのことを蝶のように例える。着飾った着物が広がる姿がそう見えるそうだ。
満開の桜が舞う春の日の朝、堀の周りを囲む人々は中覗いてこう言ったそう、まるで蝶が舞っているようだった、と
『宵闇胡蝶』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 69人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あまさく | 作成日時：2023年11月8日 20時
