オオムラサキ kwmr ページ12
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「花魁〜」
目に映る家々人々、鼻をくすぐるキセルの煙や焚いたお香、聞こえてくるのは店に客を呼び込む男女の騒ぎ声。橋を渡ればここは別世界、人と人が巡り合い愛やらなんならで血や涙を流す街。
廊下をパタパタと走る音と禿の声、しばらくすると襖が開かれた。
「河村様だよ〜」
パッとそちらを向くとこちらをニコニコしながら見つめる禿と後ろに立つ
「河村さん」
「しばらくぶりだね、花魁」
彼は部屋の中に入り腰を下ろした。禿はまたパタパタとどこかへ行き、部屋には2人きり。
「土産があるんだ、ほらこれ」
「まぁ、」
彼は懐から細長い木箱を取り出した。
中に入っていたのは今まで見たことのないくらい美しい簪で、金と紫と花の飾りがついている。
「素敵…」
「よかった」
思わず感嘆の声を漏らすとこちらを慈しむような笑顔で笑う河村さんに胸が苦しくなる。
花魁、この廓の中で私はそう呼ばれこの地位に就くまで血反吐を吐く思いで生きてきた。顔が美しいだけじゃない、芸妓のように芸事もできるようにならなければ全員同じに見えるだけ。なにより誰よりも教養も身につけなければならない。
河村さんは私が花魁になる前から懇意にしてくださる方で、物腰が柔らかく弁は立つけど鼻につかないし、何より優しい人。
「大切にしますわ」
「ありがとう」
彼がくる頻度はそこまで高くない、そもそも花魁に会えるようになるまでに途方もないくらいの時間と金がかかるが彼は政府のお偉いさんのため仕事に追われているらしく月に一度から二度くらい。
「
そう言って重なる2人の影、私の夜が今日も始まる。
立羽、私の源氏名は花魁になるにあたり目の前の河村様がつけてくださった。
私はこの方に1人の女として焦がれてしまっている。彼の一言、一動でどうしても胸の高鳴りが抑えられない。廓で生きる身としてはこの世の何よりも不毛で捨てなければいけないこの思い。
床の中、私は目の前の人に愛されてる時間が好きだ。月一度でもいい、貴方の胸に光る金の花の飾りに止まるのは私だけがいい。
貴方だけの蝶になりたい
「…寒い？」
「いえ…河村様が暖かいから」
「そう」
彼の腕に抱かれ身を寄せる。彼の吐息、匂い、全てがすぐそばで感じられて何よりも嬉しくなる。
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作者名：あまさく | 作成日時：2023年11月8日 20時
