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優しい人なのだ彼女は、だから俺も彼女のもとに付き従ってきた。
『それにさ…もし子どもができた時に家にお母さんがいた方が嬉しいと思うんだ』
あぁ、この
仕事で両親が家にいないことが常の幼少期を過ごした彼女の寂しさは推しはかれるものではない。
自分と同じ思いをさせないために、優しく慈愛に満ちたその想いにその時の俺は何も言えなかった。
彼女が家庭を持つなんて、そんな未来、想像するだけで心が痛んだ。
…
「今日は楽しかった」
「俺もですよ」
「おやすみ、須貝」
「おやすみなさい」
彼女の部屋のドアが閉まって足音が遠のいたのを確認して俺も部屋に戻る。
幸か不幸か、彼女は結婚したら敷地内の離れに住むことになっている。夫婦2人で水入らずに、というわけではなく俺ともう1人女の使用人が寝食以外一緒にいる。
一緒にいると辛いとか、もうそんな次元じゃなくなった。こんな辛い思いするくらいならって自分の出自を恨んだし出会わなきゃよかったって何度も思った。
この感情がそういうものだとはっきりと自覚したとき、察しのいい俺は同時に絶望を感じた。
隣で彼女が笑う度に俺の中で何かが満ち溢れてこぼれそうになる。
「あんな、今日な…」
自室に戻って鍵を閉め、俺は部屋に飾ってある百合の花に今日あったこと、感じたことを話しかけた。一見狂気じみているこの行為。
「私には須貝がいるけど須貝だってたまには吐き出さなきゃダメだよ？ストレスは体に溜め込むと悪いから」
誰のせいで、そう思ったが口にすることなくわかりましたとその時はそう言った。
あるとき部屋が殺風景だと心が詰まりそうだ彼女に言われ色とりどりの百合の花束をプレゼントされた。
「百合ってフルールドリスとか高貴なイメージがあるし須貝って騎士っぽいからよかったら」
そう言って渡された花束に内心苦笑しながらもありがとうと感謝して受け取った。
「あ、じゃあこれはあげる」
花束に刺さってた百合のうちある一色だけを抜き取って全部渡した。
「え？」
「普通のはつまらんから」
「あ、良いけど」
きょとんとしている彼女をスルーして、花瓶探してくるわと言ってその場を離れた。
誰にも言えないこの思いを俺はこの色とりどりの百合たちに吐き出して、一生明かさないことを誓うのだ。
その中に白い百合はない
貴女自身に伝えることはできないから
『Silent Oath 』
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作者名：あまさく | 作成日時：2023年11月8日 20時
