時計さんVI ページ7
緑谷は焦っていた。
眼前にする相手の眼に宿る信念に怯え、それを払拭するように自らの焦りで恐怖を上書きする。
その焦りの元は友人だった。眼前にする相手、ヒーロー殺し。所謂ヴィランと呼ばれる者＿＿本物の殺人犯に行動不能にされた友人の存在が、彼の焦りを加速させていた。
それでも。
「オールマイトが言ってたんだ！ 余計なお世話は、ヒーローの本質なんだって……！」
彼は笑った。恐怖を上書きした焦りを抑え込むように。
その彼の引きつった歪な笑顔を見て、遥か上、建物の屋上からささやかな拍手を送る者がいた。その拍手は彼らには届かず、路地の表の喧騒に掻き消される。
「そうだよねぇ、ヒーローは見殺しになんかしないし……仇討ちもしない。ただ大切な誰かを守るのがヒーローだ」
ぼそ、と呟いたそれも掻き消され、誰の耳にも届くことは無かった。
緑谷と、ヒーロー殺し。実戦の経験があるのは当然誰が見ても後者だし、緑谷は個性の上手い使い方を学んだばかりだ。圧倒的に不利な緑谷は、それでも向かっていった。
友を護るために。
「カッコいいよ、未来のヒーロー」
くす、と笑った彼は、汚れひとつない真っ白なローブをはためかせ、ワクワクと、その闘いを楽しむように身を乗り出した。
「あれ、特等席取られてる」
突如として聞こえた声に、彼は振り向く。
「ハ？ なーにお前、今更来たわけ？ おっそ」
「諸事情あってね。キミこそ早いじゃないか、暇なのかい？」
「うざ」
軽口を叩いているのか本音なのか、それを表情から読み取ることができない彼ら二人は、何だかんだと横並びになって階下で行われている闘いに目を向けた。
「で、どっちが勝つと思う？」
「さぁ？ 私はどっちに付くつもりもないから」
「そういう立場とか抜きにして」
「じゃあ一介のモブとして言うけど……これは少年側かな」
「それは何故？」
「勘」
「お前さ、ホントそういうとこだよ」
白いローブと黒いローブで並び、まるで野球観戦をするかのように軽く階下の闘いを眺める二人。
この二人によって、物語の歯車が並び替えられ、大きく変わることになることは、未だ誰も知る由も無い。
続く
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