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優しい先輩。【srr】 ページ3

ぷわぁぁぁ!
 上手くいかない演奏に行き詰まった私は、思いっきり楽器に息を入れた。
 金管楽器特有の音が響いた後、マウスピースという楽器に息を吹き込むピースから口を外した。唇を振動させて演奏するせいで、まだ唇がブルブルする。
「なになに、どうしたの」
 長机を挟んだ向かい側、先輩の一ノ瀬彼方さんが心配そうに私を見た。
「無理です!どう頑張っても無理です!」
 そう言った私の声は金管演奏者が使う部屋に充満する楽器の音に、溶けて消えた。
 ここは高校。年の近い人たちが部活として使っているこの部屋は、沢山の才能に溢れている。
 なのに私は、
「やりたくてやっている楽器じゃ無いのに、何でこんな難しいのやらせるんですか」
 希望楽器に落ちた落第者。
 目の前にある楽譜はアドバイスを適当に書き殴ったせいでぐちゃぐちゃになっている。
「ごめんね」
 2年生がいないせいで演奏部分が周りよりも多い''トロンボーンパート''の私達。更に、2年生がいないという事から、来月に迫る大会を最後に先輩は引退し、このパートは私1人になる。
 来年、新しく入った1年生を私1人で教えなければいけない為、この一ヶ月で上達しなければいけない。
「いや、別に、先輩をいじめてるワケじゃ無いです」
 とは言え、先輩に八つ当たりしてはいけないとわかっている。
「んー、じゃあ俺が教えてあげるから、出来ないところ一緒に練習しよ」
「え、でも今日は個人練のみって先生が……」
「いいのいいの。可愛い後輩が困ってるんだから教えてあげるのは当然でしょ。それに、パート練じゃ無くて、教える、だから」
 半ば強引な先輩は自分の楽譜と楽器を持ち、私の隣に座った。

「あ、ここが出来ないのか。ここはね、先生が間違ったアドバイス出したからなんだよ」
「そうなんですか?」
「うん。こうやって演奏する方が格段に良いからね」
 そう言ってぷわぁ、と出した音は確かに、演奏を良くするものだと私にも分かった。
「えへへ、凄いでしょ」
 まじまじと見る私に気付き、先輩はそう笑った。

「彼方さん、Aちゃん、もう終わりですよ」
 トランペットパートの相川先輩がそう言ってくれるまで時が過ぎている事を気付かずにいた。
「あ、わかった。……Aちゃんすごく上達したよ」
「ありがとうございます」


 ______大会までの一ヶ月、先輩を好きでいていいですか。

 楽器を片付けてそそくさと帰る先輩を見て、そう願った。

滑り込み。【sou】→←嫌いになってもいいから。【mfmf】



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絵鞠(プロフ) - 千海さん» リクエストありがとうございます。僕も沢山書けるし、ご希望に寄り添えるし、一石二鳥!ありがとうございます! (2022年3月27日 19時) (レス) id: b2d7297930 (このIDを非表示/違反報告)
千海(プロフ) - コメント失礼します。いろんな歌い手さんのお話が詰め込まれてて、すごく好きです!リクエスト等受け付けたりされていますか?されていたら、反応集みたいなので「抱きついてみた」お願いします!されていなかったらすみません。長文失礼致しました。 (2022年3月26日 18時) (レス) @page17 id: b4c51071c3 (このIDを非表示/違反報告)
絵鞠(プロフ) - ぴったり1’000hitになった瞬間を見れました。面白いですね嬉しいです。 (2022年3月20日 20時) (レス) id: b2d7297930 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:絵鞠 | 作成日時:2021年8月18日 15時

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