比翼の鳥 (ページ25)

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見落としていた、素性　　vanillas gt.vo ページ25

「Aって本命とかいないの？」

ぐるぐるぐると脳内に残り続けている同僚からの言葉。

曖昧な言葉でなんとか逃げたが、乙女な彼女から逃げることなど到底無理で

「なに、濁さないといけないってことはいるってことね？」

『なんでそうなるの、私何にも言ってないのに』

「いや、甘いねAちゃん。私の目は誤魔化せないからね、ほら耳赤くなってるよ」

『‥嘘でしょ』

「おばか、そんなわけないでしょ。その反応されたらいるってことだな？」

嵌められた、と恥ずかしさを振り払うように頭を左右にぶんぶんと振ると、ガチャリとガラス戸の奥からスラっとしたボーカルが集合時間から数分ほど過ぎたのにも関わらず軽やかなステップと共にスタジオに入ってきた。

牧「ちわーす」

『もう、牧さん！あれほど連絡したのに何で遅刻するんですか』

牧「ん〜？連絡なんてきてたっけ？」

『はあ‥なんか牧さんに言ってやってくださいよ、柳沢さん』

柳沢「えぇ‥もうこれ普通になってきちゃったからなあ」

駄目だ。牧さんが遅刻を繰り返してるせいで、柳沢さんの感覚が狂ってきてる。

もうムネさんに頼るしかない、と諦め半分で決意すると、目の前には長くて細い指に握られている紙袋。

牧「これAちゃんに。今日ホワイトデーだし、いつもお世話になってるからどうぞ」

ネットで見かけた長蛇の列が並ぶというお店のクッキー缶と黒い小さな箱の姿が紙袋の中に入っていた。

『これって何時間も並ぶっていうお菓子じゃないですか。牧さんやっぱりセンス良いですね、遅刻と忘れ物癖の二点以外は素敵だと思います』

ちょっとだけ棘を含ませて言葉を投げたけれど、当の本人は聞こえていないのかというくらいのにっこり笑顔。

横でギターを練習している柳沢さんは私の言葉の意味に気付いたらしく、くつくつと喉を震わせている。

牧「良かった、喜んでくれて。いつも凛のおやつとか貰ってるから、それのお礼も込めて是非貰って」

『わざわざありがとうございます！でも、凛ちゃんのおやつは私が渡したいだけですよ？あの天使に一回会うと、何人たりとも虜にされちゃいますよ！』

ふりふりのしっぽとご主人顔負けのきゅるきゅるなお目目を見た時、私の心は完全に凛ちゃんに射抜かれた。そして、目の前にいるあなたにも、とは絶対に言わないし言えない。