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わざわざ送ってもらったから、「じゃあ」と引き返そうとした彼に「お礼になんかいる？」と聞いたのだって、申し訳ない気持ちからだった、と思う。
「なんか」
クスリと笑ってそう繰り返される。
「……コーヒーくらいしかないけど。あ！チョコあるよ。チョコいる？」
「んー、…コーヒーがええな」
「…じゃあ、ちょっと上がってもらって」
「あい、お邪魔します」
狭い玄関で靴を揃えた彼。
散らかってもいないけどすごく綺麗でもない、生活感が滲む部屋。
急に誰かが来るのは少し恥ずかしい。
お母さんが買ってくれたコーヒーマシンで、いたって普通のインスタントコーヒーを淹れる。
ついでに、バイト先のパートさんに急にシフトを代わったお礼にとわざわざいただいたチョコのアソートを一緒に置いた。
「はい」
「ありがと」
うまい、と小さく呟くのんちゃんはやっぱり優しいな、と思う。
「のんちゃん、ってみんな呼ぶじゃん」
「うん？Aも呼んでなかった？」
「わかんない、呼んだ記憶ない」
「マジか」
びっくりした顔で笑う。
「わかんないってことは呼んだことないんちゃう、そもそも俺を」
「そんな気がする」
「ふふ、ショック」
全然ショックじゃなさそうにショックって言う。
その楽しそうなのが、なんか少し嬉しかった。
「可愛いあだ名だよね」
「よくあるけどね」
はは、と笑った彼が「呼んでええよ」なんて言う。
「別に許可するもんでもないけど。のんちゃんでも、望でも、なんでも。Aちゃんの好きなように」
「可愛いからのんちゃんにしようかな」
「ふふ、今更やけど」
「ね」
「あんま喋ったことなかった？」
「たぶん。みんなでとかだったかもね」
そうやんな、とのんちゃんがマグカップに口を付ける。
いつも自分が使ってるものを、今日までしっかりと話したこともなかった微妙な距離の男の子が使ってる状況にやっぱり少しソワソワする。
のんちゃんが「A」と呼ぶのも新鮮な気がしてたから、きっとお互い様だった。
「あ、スイッチあるやん」
「あるよ」
テレビに近づいたのんちゃんが「いいな〜」とコントローラーを持ち上げる。
「やりたい」
「どうぞ」
「やろ、桃鉄30年」
「終わんない終わんない」
ハハハ！と目を細め大きく口を開けて笑ったのんちゃんが、カップを傾けて残りのコーヒーを口に入れた。
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菜 SAI(プロフ) - はじめまして。とってもいいお話でした…！ちょっとヒリヒリしたり、まっすぐだったり、、読みながら感情がたくさん動きました。のんちゃんの重い愛が重すぎない表現で、重くて良かったです！！！ありがとうございました。 (2022年9月3日 3時) (
レス) @page20 id: 671454c607 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：花音
| 作成日時：2022年8月18日 21時
