甘々な避難場所。２【短編集】

君の方がかわいいけどね。【赤】 ページ30

｢____あれれ？｣

……かわいい。

｢めぇめぇ、なにしてんの｣

……かわいい。

｢ころちゃんがいじめてきまーす｣

……かわいい。


｢はわ、もうかわいい……かわいいの供給過多すぎるよこれ……｣

｢こいつ何？｣

｢ああ、Aちゃん｣


思わず口から激情が溢れ出る。

私の愛してやまない かわいすぎる莉犬くんと、お隣のクラスのかわいい水色の男の子。この組み合わせは罪である。かわいい罪で逮捕だ。……いや、どちらかというと逮捕されたい側かもしれない。わんわんポリス莉犬くんに。


｢いやっ、かわいすぎやしませんか｣

｢こいつ何？妄想してんの？キモ｣


水色の男の子から蔑むような目で見られるが、そんなところもかわいい。

彼が吐いた暴言に、教室の視線がこちらに集まっている気がする。既にそんなことはどうでもいいのだ。


｢ころちゃん、女の子にキモイとか言っちゃダメだよ。Aちゃんは俺のこと甘やかしてくれるから｣

｢莉犬くん……！ありがとう、またお菓子あげるね｣

｢餌付けされてるやん。莉犬くんはそれでいいのかよ｣


こんなやり取りでもかわいいが大渋滞して、頭の中はしっちゃかめっちゃか。

かわいい。本当にかわいいと思う。付き合いたいとか、そういう感情ではないが。


｢餌付け？どっちかっていうと俺がAちゃんのこと餌付けしてんじゃない？｣


まるで他人事のように言い放つ莉犬くんは、どこか妖しげな雰囲気をまとっており、思わず固まってしまう。

たしかに、私はお菓子という餌で莉犬くんを釣っている。彼がしっぽを振って着いてきてくれるものだから、ついあげちゃうのだ。


｢いや、私は莉犬くんを餌付けしてますけど、された覚えは……｣

｢かわいいって餌に釣られちゃって、かわいいね｣


餌付けは、している。が、彼になにかを渡された覚えはない。それを口にすると、莉犬くんはあろうことか 私に向かって『かわいい』と言っていた。


｢か、かわいいなんてそんな、私みたいなのに言うべきじゃないですって｣

｢俺はAちゃんに構ってほしくてかわいくしてるけどね。かわいくない俺でも振り向いてもらえるように。かっこよくしてる方が俺っぽくて好きだけど、君のためなら俺らしくなんかなくてもいい｣

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