祈り�� ページ38
(とある少年 side)
俺は、親と一緒に生活していた記憶が無い。
自分に名前があったのかどうか知らない。
物心ついた頃から、俺はここにいた。
生まれた日が何日なのかも知らない。だから俺は数え年。過ごした正月の回数で自分の年齢を数えた。
愛情なんて、言葉しか知らない。
俺たちは、いつも小汚い大部屋で雑魚寝をして生活していた。
食事は、自分で獲ってきた獣や魚、木の実。
日を追うごとに、同胞の顔ぶれは入れ替わる。
俺は、ボスによく頼りにされていた。運よく俺は命を保っていたが…
俺は、毒開発の実験体。皮膚に毒を塗られ、経過を観察させられる。
そして俺は、将来忍となることを求められ、教育されている様だ。
時には、毒の入った瓶を持たされ、どこぞの村の井戸へ入れるよう指示される。
俺は、迷子の振りをして村人に近づき、村へ入り込む。そして夜、井戸に毒を入れる。
井戸の水を飲んだ者がどうなるかは、言わなくても分かるだろう。
そんな日々を過ごしてたある日、俺が７歳のとき、ある少女が同胞に加わった。
始めて会ったのは、城内の忍術の鍛錬広場だった。
彼女は、大きくきれいな瞳をしており、髪が長かった。
着てる物は薄汚れているが…
こいつには、親と一緒にいた記憶がある。俺はそう直感した。
少女「はじめまして。」
少年「…」
少女「あなたのお名前は？」
少年「…俺は漆。」
少女「それは、数字の「なな」だよ？」
少年「…名前なんてあるわけないだろ。」
少女は、どこからか木の枝を持ってきて…
地面に何かを書いた。
少年「それは何だ。」
少女「これは文字。これを使うと、お話しなくても人に物を伝えることができるの。」
少年「ふーん。」
少女「うーん…」
少女が来た日の夜も、俺はまた毒を塗られた。
少年「痛ってえ…」
少女「…大丈夫？」
少年「…いつものことだよ！お前もそのうち、同じ目にあうぜ。」
少女「私、そんなの嫌だなぁ。」
少年「！！何すんだよ！！」
少女「これは、お薬。痛いのを、軽くしてくれるの。」
少年「…」
腕に塗られた、緑色の何か。
しばらくすると、皮膚は赤いけれど、痛いのは収まった。
少女「いつも、こんなことされるの？」
少年「…ここにいるやつは、みんなそうだ。」
少女「みんな、お名前が無いの？」
少年「…決まってるだろ。」
少女「うーん…」
少年「なんだよ。」
少女「考え事。」
少年「ふんっ」
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作者名：恋夏 | 作成日時：2022年10月1日 18時
