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昔の噺だ

僕が貧民街で過ごしていた頃、不思議な女と出会った。

髪も目も闇を写したような美しい漆黒で、

肌は陶器のように白かった。

僕よりも二歳年下だったが、僕よりも行動力があった。

本人は露西亜から逃げてきたと話していた。

初めて会ったときは敵とみなして攻撃をしたが、

あいつは抵抗しなかった。

僕がまだ殺すのを少し躊躇うと判っていたようだった。

そして僕にこう聞いた。

『君にとって生きるとは何?』

僕は答えられなかった。

悔しかったが、正直に答えると、

『同じだね』

と答えた。

名も聞かずに一ヶ月ほど生活をしていたが、

ある時ふっと消えてしまった。

前触れも無しに。

だが、また会える気がした。

あいつの暖かい瞳が忘れられない。

あいつの柔らかい声が忘れられない。

あいつの僕を撫でた手が忘れられない。

……

名ぐらい聞いておけばよかった。

名ぐらい教えておけばよかった。

心から滲み出るのは後悔だ。

だが、あいつのお陰で僕は

感情が何か判った気がした。

僕とて大事な人はあいつ以外にもいる。

だが、あいつへの気持ちと

妹への気持ちは全然違う。

この気持ちが何か僕は薄々感づいている。

僕が持っても良いものなのだろうか?

あいつに迷惑なだけなのかも知れぬ。

だが、捨てることなど出来ぬ。

何処にいるのかも判らぬ上、

名前も個人情報も僕は知らぬ。

何度か探してみたが、

何百枚何千枚と別の写真が出てきたのみだった。

だが、もしもう一度会えたら、

話したい。触れたい。手放したくない。

それが出来ぬと云うならば、

せめて………せめて名前を知りたい。

そして守りたい。

僕の全てをかけて……

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作者名:玉兎 | 作成日時:2019年7月28日 10時

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