【銀魂】花時の青い夢【合同企画】 (ページ25)

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……酷く懐かしい夢を見ていた。卒業アルバムにも何処にも載っていない、俺の記憶の中だけにある映像が映し出されていた瞼を、俺はゆっくりと開いた。視線の先には見慣れた、何の飾り気もない白い天井があって、俺が寝ているベットの横には窓がある。なんだか冷たい色を帯びた夜明けの光に俺は照らされていて、茜色に染まった、暖かくて優しい、けれど何処か寂しい夢が終わりを告げたことを自覚した。まどろむ意識で先程まで見ていたの夢のことを思い出す。もう10年も前の話なのに、どうして今更こんな夢を見たのか、俺にも分からなかった。

ひとつ溜め息を漏らしながらにベッドから起き上がり、立ち上がっては机の上に置いてあった時計を確認すると、休日に目を覚ますには納得いかない時間で。けれどもう一度ベッドに潜り込む気にはなれなくて、俺はあくびをしながらに伸びをした。

…良い朝だとは言い難い目覚めだった。

なんであんな夢を見たのかは分からない。切っ掛けというのは特に何もなくて、けれど俺はあんな夢を見ていたのだ。10年も前の、夏の終わりの帰り道の記憶だ。

未だに引きずっているつもりはなかったのだけれど、夢を見てしまうくらいにはまだ俺の中で深く根付いているのだろうか。記憶の奥底に追いやった気でいたのに。正直、夢を見るまで忘れていたのに。おかげで思い出してしまったじゃねーかと、八つ当たりのようにそう思う。まぁ、八つ当たりする相手も居ないのだけれど。勝手に夢を見たのは俺自身なのだから。

「……」

俺は思い出す。『ごめんね』と、彼女は、Aは俺にそう言った。何度も、ごめんねと口にしていた。それから、今までありがとうねと、俺にそう告げた。

何に対して彼女は謝っていたのだろう。俺に転校のことを言わなかったことについてだろうか。それとも、もっと別の理由があったのだろうか。俺にはもうその言葉の意味を知る術がない。けれど、今分かることがあるとすれば。

『ごめんね』と言ったAの声も、『ありがとう』と言った声も、まるで泣き声みたいな声だったということだ。あの時の俺は、そんなことに気付けなかった。きっと彼女は泣いていたのだと、今ならそう思う。掠れていて、所々歪に震えていて。泣き出しそうなのを堪えるような声だった。自分のことで精一杯だった俺は、彼女が泣いていることに、気付けなかったのだ。

…俺は多分、彼女が泣くはずがないと。そう思っていたのかもしれない。