【銀魂】花時の青い夢【合同企画】 (ページ19)

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『あのさ……』

幾つも脳内で言いたいことの案を出したり、シュミレーションもしたが、いざ本人を前にすると、Aは何も言えなくなり、沈黙で無駄な時間が流れていく。

このままでは高杉に呆れられてしまう。切羽詰まった彼女は、彼の腕を掴んだまま早口で捲し立てた。

『私たちって、もう、別れちゃったかな？』

そう口にした刹那、一瞬にして世界から音が奪われる。
しかし彼女の心臓の鼓動だけは喧しく、大きく弾んでは落ち着かない上に、このままどこかへ飛び出してしまいそうだ。

腕を掴んだところから、彼女の心拍が彼に伝わりそうになるも、それでも手は放せないまま、制服の上からでも分かる彼の骨張った腕の固い感触を焼き付けていた。

『……は？』

ガラガラと、足元が崩れ落ちていく気がした。浮遊感は高揚したものではなく、彼女を絶望の淵へと叩き落とす。前後不覚に真っ暗で、そのまま一気に押し潰されてしまいそうだ。

『なんでもない！忘れて！』

彼を軽く突き飛ばし、鞄を引っ掴んで教室を飛び出した。途中で何度も躓いてはつんのめるも、それでも止まらず、後ろを振り返らずにひた走る。

振り向いてしまえば、彼が全てを暴くような、そんな鏡みたいに見透かす目で自分を見てくる気がしたのだ。しかし現実はそんなことはなく、校門を出たところで彼女は試しに振り返って見たが、そこには誰もいなかった。

茜空を飛ぶカラスの「アホー」という濁った鳴き声が、今の彼女をバカにしているみたいで。

ああ、知っているさ。と。自身の発言がどれだけ稚拙でマヌケなことも、図々しいことも彼女は分かっていた。ただ、もう彼が自分のモノではないことが、心底嫌なのだ。

まだAが彼の「彼女」だったら、今も彼女だけの男になってくれていたのかもしれない。自由で、己の信ずる天馬空を行くような孤高な男が、彼女に少しでも勇気があれば、まだ隣を歩いていたかもしれなかった。

高杉は覚えているだろうか。最初で最後の彼女とのデートを。
恋人たちがこぞって集うクリスマス、彼女が姉に必死に頼み込んで花柄のスカートを借りて、化粧もしてもらって、隣を歩いていた彼女の姿を、その目の裏にはまだ消えずに残っているのだろうか。

『あれ、返さなきゃ……』

無意識に、口から涙のように零れた言葉。あれが手元からなくなれば、このどうしようもない感情は無くなるのかもしれない。
Aは零れ落ちる涙をすくい取るように歩き出した。

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