【銀魂】花時の青い夢【合同企画】 (ページ18)

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高杉の存在は、A中でキッチンの油汚れのように簡単に消えることはなかった。

それは彼にカリスマ性があるからという訳でも、元彼の動向が気になるという訳でもなくて。ただ忘れられない。
彼女はその理由に見当はついているが、どうにも言葉にしようとすると喉の奥につっかえてしまうのだ。

その代わりに乾いた咳が呼吸と混ざって口から漏れ、誰も彼にも届かずに、塵埃に紛れて遠くへと飛んでいく。

放課後、彼女は予備校をサボって自分の席に座った。この季節の教室には放課後など誰もおらず、寒波は彼らに「大学受験」という名の戦争と共に本格的に襲来しようとしている。

しかし彼女の隣の席には、まだ鞄が机の横にぶら下がっていた。彼女はこの人物の帰りを待っている。
約束をしている訳ではない。教科書を見せてくれたお礼を言いたいという名目で、図々しく彼女は彼のことを待っていた。

椅子から降りる足をぶらつかせたり、教室の床に敷き詰められているタイルの染みの数を数えたり。彼の見ている窓の外の景色を見つめ、そうして早くも遅くもなく、流れる時間を潰す。

塾の講師が受験本番まで一分一秒が大切だと言っていたが、今のこの時間は英単語を覚えることよりも大切だと、彼女の中では満場一致の可決であった。

その時、カラカラと教室の扉が開く音が耳に届く。そこには彼女の姿を見て途端に表情を歪めてしまう、彼女が待ち焦がれていた相手が立っていた。

何も言わずに高杉は上履きの踵から地面につけるようにツカツカと歩き、自分の席から鞄を取るも、彼女はその腕を掴んで引き止める。

『……なんだよ』

冷たく細まる瞳。蛇に睨まれたように身体が痺れた。乾いた喉を潤すために生唾を飲み込み、息を吸うためと声を出すためにゆっくりと口を開く。

『教科書、見せてくれてありがとう』
『お前、ンなくだらねェこと言うために俺を待ってたのか？』
『うん』

お礼を言うという用事が早くも終わってしまった。まだ続けたくても話題なんて思い浮かばず、Aの脳内は表紙をめくった本の一ページ目のように真っ白で。
だが、高杉が「おい」と彼女を呼ぶ。

『笑ってみせろ』
『へ？』

突然笑ってみせろとは。と、彼女が小首を傾げても、高杉は黙ったまま彼女を見つめ続ける。その有無を言わさない視線に負け、Aが口角を上げて笑ってみせるも、彼は釈然としていないような顔で、自身の口元に手を添えた。

そしてまた、教室は静寂に変わる。

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