【銀魂】花時の青い夢【合同企画】 (ページ29)

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…溜め息のような吐息を漏らして。目を閉じれば、瞼の裏にはあの時の記憶がまた映し出される。10年も前に過ぎ去っていったいつかの景色が。夏の終わりの湿った空気、すぐ近くに迫った秋を乗せた風のにおい。茜色に染まった街並みに、きっと泣きながら笑っていた彼女の姿。聞けなかったこと、伝えられなかったこと。忘れようとしていたこと。けれど忘れられなかったこと。そのすべてが、ここにあったのだ。それを思い出すと未だに胸がチクリと痛んで、訳もなく泣きたくなった。

遠回りを繰り返しながら、大切だったものをいくつも失いながら大人になってきたけれど、それでも、変わらないものがあるのだということを、信じられずにはいられない。

そうしてゆっくりと、目を開く。空にはもう夜の残骸がなくなっていて、澄んだ青空が広がっていた。あの頃と変わらない街並みがそこにはあって、春の柔らかなにおいを乗せた風が俺の前髪を揺らした。

『元気でね』

…と、彼女は最後に俺に言った。確かに笑って。俺がいつも知っている彼女の笑顔で、笑っていた。その声が、何故か今でも聞こえるような気がして耳を澄ませた。けれどやっぱり聞こえてくるのは何処かで走っている車の音と、風の吹く音だけだった。彼女の声は聞こえない。当然だ。

どうしようもないな、と。そう思っては、なんだかおかしくなって、少しだけ笑った。

彼女はもう俺の傍には居ないのに、それを分かっているのに、どうしてここにわざわざ来て、あんな言葉を呟いてみたりしたのか、俺にもよく分からない。自分のことなのに、分からなかった。特に理由なんてないのかもしれないし、俺にも分からないくらいの複雑な何かがあったのかもしれない。どっちでもいいことだ。

ただ、口にしてみたくなっただけなのだろう。言えなかったことを言葉にしたかっただけなのだろう。ずっと喉の奥につっかかっていたものを、少しでも吐き出したかったのだろう。そんな適当な理由をつけておくことにした。

「……帰るか」

ポツリ。俺は呟いて、足を踏み出した。来た道をまた辿るように、坂道を下っていく。

空を見上げる。そこにはまだ、青空に浮かぶ白い月があって、それはやっぱり素直に綺麗だと思えた。少しだけ欠けた月だった。彼女も何処かで、あの月を見ていたりするのだろうか。そんなことを、ふと思う。

いつかのあの日の断片を。
青い幻の一欠片を拾い集めるように。

俺は彼女と歩いた道を歩いた。