【銀魂】花時の青い夢【合同企画】 (ページ27)

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…歩きながらに、俺はまた記憶に思いを馳せていた。ゆるやかな坂道を登りながら、いつかの思い出を頭に巡らせる。

Aが俺に転校することを告げた次の日のホームルームで、改めてクラスでAの転校のことがクラスメイトに知らされた。Aはクラスの中でも目立つ方ではなかったけれど、人の良さからか皆から好かれていて、それを知らされた教室が息を呑んでいたのを覚えている。クラスメイトは彼女の転校を酷く寂しがった。チャイナなんかは少し泣いていただろうか。

それから彼女はクラスから居なくなって、数週間もすればそんな状況にも慣れてきて、Aの話をするような奴も居なくなった。まるで、Aが元から教室に居なかったみたいに。

一人の生徒が居なくなったくらいで、変わるわけもない。俺の生活もそう変わらなかった。同じように学校に通って、同じように友人と下らない話をして、同じように過ごしていた。違ったところと言えば、Aと一緒に下校することがなくなったことくらいだ。Aが教室から居ないことくらいだ。一人の生徒が、教室から欠落したくらいだ。

…それが俺にとっては、思っていたよりも苦しくて。

そうだ、だから俺はなるべく何事もなかったように過ごして、Aのことも忘れてしまおうとしたのだ。記憶を心の奥底にしまって、厳重に鍵をかけて。そうして、今まで生きてきたのだ。あの日からの10年間を。

けれど、他のどんな記憶を忘れられても。都合のいいように書き換えられても。彼女のことだけは忘れられなかった。彼女の言葉を聞けなかった後悔が消えることはなかった。だから、あんな夢を見たのだ。

…俺は、Aのことが好きだった。

そのことを、俺は伝えなければならなかったのだ。けれど、いつだって、伝えたいことばかりが言葉にならない。もしかしたら彼女の中にも、そんな思いがあったのかもしれない。彼女の言いかけた言葉すら聞くことも出来ないまま。そうして10年も時間が過ぎていってしまった。

…道端に落ちていた石ころを足の先で蹴る。石ころが転がる。

Aが居なくなって、高校を卒業して、取り敢えず大学に入ってふらふらとして。なんとなく選んだ会社に入って、同級生とたまに会って酒を飲んだりして。まるで転がっていった石ころみたいに、俺は適当に生きてきたのだ。

忘れたふりをして、けれど忘れられないまま、ぼんやりと生きてきたのだ。