二十三 ページ23
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「これより先…貴方様が、どうなさるのかは…御自分が一番、お分かりのはず。」
よろよろと立ち上がった政之助は、地面に突き立っていた刀を抜き、頭巾を取ると…智之介を見た。
「正二郎は…」
「何も、ご存知ありません。」
「あの日…大野殿と話をしていた正二郎の顔が 忘れられなかった…」
「…」
「あれほど、楽しげに笑う正二郎の顔を…久しく見たことがなかった…」
「正二郎殿は…貴方様の身を、心から案じておられます。貴方様の試し切りを止められなかった 御自分の弱さを…未だ、責め続けておられます。」
「大野殿。」
政之助は、智之介を真っ直ぐに見つめた。
その眼には、もう…狂気の欠片(かけら)も、見受けられなかった。
「正二郎に、伝えて頂きたい。“今まで、すまなかった”と…」
「承知致しました。」
政之助は…
智之介へ 頭を下げると、闇の向こうへ消えて行った………
数日後…
大野家の客間………
「……結局、下手人は どこかの旗本の息子だったらしくてな。町方には、手ぇ出せねぇってことで 調べは打ち止めだ。」
「そうですか…」
「智さん… おめぇさん、何か知ってるんじゃねぇのかい？」
探るような眼(まなこ)で、智之介を見つめる和馬。
その和馬へ、智之介は いつもと同じ笑顔を向けた。
「いいえ。私は、何も。」
「……まぁ、いいか。智さんが掴み所のないお人なのは、百も承知だ。」
和馬は、苦笑いを浮かべながら言った………
和馬が 帰った後…道場へ向かった智之介は 正二郎の姿を見つけ、足を止めた。
「どうされましたか？」
智之介は、正二郎の向かい側へ 静かに腰を下ろした。
「政之助が…切腹したそうです。」
「…」
「辻斬りの下手人…だったそうです……子細を書いた手紙を遺して、切腹していたと……」
正二郎の目から、涙が溢れ出した…
「私が…私が、政之助を止めていれば……」
「正二郎殿…」
「大事な…友であったのに……」
正二郎の…袴を握りしめた手が、震えていた。
時折、堪え切れぬ嗚咽が漏れる…
智之介は、そんな正二郎の姿を 少しの間見つめていたが…
やがて…
静かに、口を開いた………
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作者名：愁(ｼｭｳ)
作成日時：2016年6月8日 19時
