side K ページ16
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Aから半ば強引に預かっていた手紙を、ヒロオミの前に滑らせると……
「えっ⁉」
心底驚いた、ヒロオミは…しばらくの間、封筒を見つめ続けていた。
「“ヒロオミには、絶対言うな。”って言われてたから、ず〜っと言えなかったんだけどさ。あいつ、移動で福岡へ転勤してたんだわ。」
「福岡……」
「ん。でも、来月戻るんだって。」
「えっ⁉」
「だから。連絡してやって。」
「えっ…でも……」
「それ、あいつがヒロオミに渡そうと思ってて、渡せなかったものだからさ。」
カウンターの上の封筒を手に取る、ヒロオミ。
「……綺麗な、字…ですね。」
「今時、手紙…ってのも、さ。まぁ…あいつらしいっちゃあ、あいつらしいんだけどね。」
「でも、カズさん……何で、今……」
「あぁ…ヒロオミが、頑張ったから…かな。」
「えっ…？」
Aが福岡に行ってる間、ヒロオミがどう過ごすのか…見たかった。
この男の“本気”を、確かめたかった。
結果……ヒロオミの、あいつへの真っ直ぐな想いが、よく分かったから。
あいつへのサプライズとして、ヒロオミに手紙を渡した。
実は…Aも、三月九日が誕生日。
今のあいつが、喜ぶのは…
やっぱり、好きな男の声でしょう……ってね。
「カズさんの、テストに…受かったんですね、俺。」
「そうね。合格、おめでとう。」
「あぁ〜 やっぱり、カズさんは知ってたんだ。Aさんの居場所。」
「当たり前だろ。幼馴染みの、腐れ縁よ？」
「いいなぁ〜 幼馴染み。」
「……いい訳、ねぇだろ。」
いい訳、ないでしょ。
あなたにとっては、さ。
「ヒロオミは、あいつに惚れてんだろ？ 幼馴染みじゃ、進みようがねぇだろうが。」
「カズ、さん……」
「だから。あなたにとっては、良くねぇだろ？ …ってこと。」
「…」
「ちなみに。A、九日が誕生日だから。」
「……えぇっ⁉」
慌ててスマホを弄り始めたヒロオミが、何だか可愛らしくて…笑みが漏れるのを堪えつつ、マティーニを作り始めた。
fin
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作者名：愁(ｼｭｳ)
作成日時：2016年7月27日 16時
