おかえり。 (ページ6)

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「掛け算できんだ、すげぇじゃん」

「もうすぐ3年生だもん、できなきゃ！」

最近の小学生は愛想笑いも上手くできるんだ

彼女の横顔を見詰めながら頭に軽く手を置いて

ポンポンと優しく撫でる

ほんとに、俺何やってんだろ。

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この光景を密かにレジから見守る阿部は

にっこりと微笑んだ。

だけど、その笑顔はどこか奥深くに寂しさがあって

悲しさがある様な笑顔

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「え、映画？」

「上司から貰っちって、行く人とか居ないんでどうかなって」

あの想いがまだ続いていた春真っ只中

気温の落差が大きく、ココ最近は大雨が降ったり急に晴天になったりと多くて

客の来店頻度も少し落ちていた頃

久しぶりに朝忙しくなく

ゆっくりと新聞を飾っていた時、あの人が来店した

俺の目の前にチケットを差し出して、またあの笑顔で俺を見てくる

「あ、いや、不審者じゃないんで、！」

返事も無しに見てくる俺に困惑してオドオドする姿に

吹き出してしまう俺

「全然いいっすよ」

と、返事すると動きが止まって

また満面の笑みを見せた

その笑顔、他の人にも見せてるのかな

なんて思ってしまう、恋人じゃないのに。

友達でもないのに

勝手に想像して嫉妬する癖治ったと思ったんだけどな

「あ、じゃ、えっと … 連絡先交換しません？」

「良いっすよ、携帯持ってくるんでちょっと待っててください」

今日はまだ阿部さんが来てないから

携帯を出しても怒られない

駆け足で裏へと行き、バッグを漁れば

相変わらず非通知が山ほどの画面が開かれた携帯

があった。

俺は先にロックを解除し

QRコードを差し出す

「しょう … た？」

「翔太です、下の名前」

普段名札には “ わたなべ “ としか記載されてない

だから下の名前がわかる人は阿部だけ

新規追加の欄を見ると “ F “ とだけ書いてある

猫の写真がアイコンにされた連絡先があった

「えっと、F … って」

「あ、深澤って言うんでFなんです、深澤辰哉、友人達や上司からはふっかって呼ばれてるんで

慣れたらそう呼んでください！」

深澤辰哉

ふっかか

「じゃあ、たつやって呼びますね」

同じにする訳無いだろ。

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