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「 あれ？康二って煙草吸うの？ 」
「 毎日とか吸わへんけど、なんかボーッとなりたい時は
いっつも吸っとるよ、見せてへんかったっけ？ 」
「 俺の煙草じっと見るなーとは感じてたけど
吸ってるとはね 」
「 ふっかさんが吸っとる煙草、俺と同じやからな 」
旧非常階段の15階と16階の間にある踊り場
柵に寄りかかって、二人して東京の街を眺める
信号の音、車が通り過ぎる音
楽しそうに笑い声を響かせる人
隣にいる向井は慣れた手つきで煙草を持ち
唇の間に煙草を挟めばライターを取りだし火をつけた
息を吸って深く吐けば、ポンポンと灰になったカスを
手のひらに落とす
「 熱くねぇの？それ 」
「 ん？あー、熱いんやけど癖と慣れでな 」
まだ火が消えきれてない灰なんて熱いに決まってる
向井はその灰をギュッと握り潰せば
パラパラと何も入っていない使い捨ての煙草の箱に入れる
煙草を吸う姿を初めて見たからか
俺は自分の煙草には火を付けずに
じっと吸う姿を見詰める
「 なにふっかさん、もしかして見蕩れてるんか 」
俺の方は見ないで
街並みを眺めながら呟く向井
俺は心臓が鳴って、パッと目を離した
向井は一度俺を見たが、直ぐに目を離して
二人して街並みを眺める
「 なあふっかさん 」
「 なに 」
「 愛してる人に殺されそうになっても、人生が壊されそうになっても
その人を愛し続けるのっておかしい事なんかな 」
どんどん声のトーンが高くなり
かすれてきて
最後には息を吐くような声しか出さなくなった向井
俺はゆっくりと見上げ
涙を流して、声を出すのを我慢しているのか
歯で唇を噛み、手を震わせてる向井がそこにはいた
「 え、おま、ちょどうした！？ 」
いきなりの事で俺は一瞬身動きが取れなくなったが
直ぐに身体を動かして近寄る
何度問い掛けても、何度身体を摩っても
向井の震えは止まらない
それに加えて
「 俺 … 俺はなんてこと … っ 」
と言って、ついに声を出しながら泣き始めた
崩れ落ちて壁に寄りかかり、髪の毛を掻きむしりながら泣く向井を見て
俺は頭も身体も蒼白に変わる
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作者名：渚 | 作成日時：2022年4月29日 21時
