ただ、君だけ。〈番外編〉(ymin)

＊ ページ25

幸か不幸か、タイミングが良すぎるくらいの、今日。
仕事が早めに終わり、２人一緒に帰宅。
明日はなんと、揃ってのオフ。
こんな好条件は滅多にない。


今夜が、勝負なんだと思う。


前もって、勉強っていうか、やり方くらいは調べた。
やっぱし、怖い。
とーぜんだけどね。


「伊野尾ちゃん、
俺食器片付けておくから、先にお風呂入っていいよー」
「あ、う、うん……あの、やまだ」
「ん？」
「……お風呂、出たら、話したいことある……」
「話？今じゃダメなの？」
「だ、だめ、あとで、やまだが、お風呂出たら！」
「わ、分かった……」


おれの勢いに戸惑いながらも頷いてくれたやまだ。
お風呂に向かうところから、おれの心臓はもう脈打つ音が大きくて。
緊張が、すごい。
話してるうちに、そういう展開になるかもだから。
そうだ、下準備もしないと、だよね……。
うぅ……おれ、耐えられるかな……。


鏡に写る、自分の姿。
こんな体で、やまだは満足してくれるのだろうか。
自信がない、己の身体。
それに時々、嫌でも思い出す、アイツらの記憶。
未遂じゃなかったら、たぶんおれ、壊れてた。
それほどの、恐怖。


きっと、大丈夫、やまだだもん。
ちゃんと話して、それで。
やまだに、塗り替えて貰うんだ。
全部全部、やまだのものになりたいから。


入念に洗って、チェックして。
お風呂からあがって部屋着を着る。
どうせ脱ぐかもしんないけど、脱いで待ってたらいかにも誘ってますって感じでやだもん。


いいよ、って言えば、やまだがお風呂に入りにいって。
その間に、準備。
ベッドのとこにある引き出しに、必要なものいれとかなきゃ。


しばらくして。
やまだが、お風呂から出る音。
ああ、ヤバい、緊張して手汗がすごい。


「……あれ？伊野尾ちゃーん？」
「ッ……こ、こっち！
あの、しんしつ……」
「寝室？もう寝るの？早くね？」


てっきりリビングにいると思ってたらしいやまだが、おれの姿が無いから名前を呼んで。
ああ、もう、どうしよ。
テンパりながら、場所を伝えれば。
話あるんじゃなかった？って、寝室に入ってくるやまだ。


ベッドに座ってたおれを見て、なんか、察したらしくて。
きょとんとしてた顔が、急に真面目な顔になった。

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