私が一番欲しいもの【安室透】

第11話 ページ13

"…の「徳」の研究、人間の善の部分について考える事をソクラテスは「フィロソフィア」と呼びました。「philo」は愛、「sophia」は知る。「知を愛する」という意味です。"

"そして我々皆この人間の徳、すなわち「アレテー」について何も知りません。何も考えていない。まずはその無知を自覚すること、それがソクラテスの「無知の知」となります。"


「知らない事は悪いことではないのです。知らないのに知っているふりをしたり、知らない事を平気で放っておくことが悪なのです」

それでも知らない方がいいことも、この世にはある。

(この間の安室さんは、自営業主でもなかった)

それに精通する男を誑かして聞いてみたが、降谷なんて男はその業界にはいなかった。

「先生！」

「はい、町田さん」

「そのアレテー？ってなんですか？人の善さは結局何で決まるの？」

「…アレテーとは魂にそなわる優れた性質・魂の優秀性や徳を示す。ギリシア語のアレテーは、あるものの本来の機能の働きをよくするもので優秀性・卓越性という意味を持ちます。」
「つまり、ナイフのアレテーは良く切れること。馬のアレテーは足が速いこと。簡単に言い換えれば、長所とも言えるでしょう。そして人間のアレテーについてソクラテスは"魂をより良いものにする事"と述べています。

(魂をより良く、ねぇ)

それは私の中では高潔という単語に繋がる。

(私とは真逆の言葉)

自嘲しながらふと浮かぶのは、ポアロの安室さん。何故だか彼は高潔という言葉が似合う。

「しかし、アレテーについては哲学者によって言うことが異なりますので、一概にこれ、とは言えません。一度自分なりのアレテーについて考えてみてはいかがですか？」

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