肆拾陸夜 ページ46
夢を見た。
花畑の上を、ゆっくりと歩いていた。
目的地はないけれど、ただ、一面の花に感嘆しながら、その光景を焼き付けるように歩いていた。
夢の中だと分かっているのに、妙に頰を撫でる風は心地良くて、踏み締める土の感触は、とても偽物だなんて思えなかった。
「A!」
名前を呼ばれて、振り返った。
見知らぬ男の人が、微笑みながら立っていて、私を見ている。
誰だろう、村の人でもないし、館の人でもない。
目を細めて、少し遠くにいるその人をよく見てみるけれど、やはり、記憶の中にはいない人だった。
「ここにいたんだ、探したんだよ、急にいなくなっちゃうからびっくりした」
『…』
誰ですか、と問う前に、声が出せないことに気づいた。
目の前まで来た男性を見上げ、声も出せないし、なんて答えればいいのかもわからず、そのまま見つめていれば、勝手に身体が動いた。
『ごめんなさい、雲ひとつない晴天だから、外の空気を吸いたくなって、ここは本当に良いところね』
「Aはここが好きだね、やっぱり、思い入れがあるの?」
『姿形は変わっても、生まれ育った村だもの、でも、私はこの花畑が好きなの、後悔してるわけじゃないのよ』
「そっか、そうだ、葵さんが呼んでたよ」
『もう少ししてから戻るわ、貴方も付き合って』
「勿論、でも、風に当たりすぎるのは体に毒だからね、程々に」
『わかってるわよ、ぴくとは心配症なんだから』
微笑ましい会話が咲く。
ぴくとと呼んだその人は、そんなことないと反論しながらも、私の肩を抱いて、二人で花畑を見渡した。
とても、仲のいい友人では済まされない。
男性、否、このぴくとさんと言う人と、私は親密な仲であるのは間違いないのだろう。
しかし、所詮夢の中、されど、夢の中であってもこのような夢を見るのは、何処か気が引けた。
「…A」
『なに?』
「僕は、Aが幸せになってくれるなら、なんだっていいと思ってる」
『どうしたの、急に』
「本当は悔しいけど、僕が、絶対にAを幸せにするって決めてたけど、その幸せを、僕が相手じゃないからって、壊したくはないから」
『何、何を言ってるの?私は貴方と…あな、たと…』
「大丈夫、幸せになって、僕は大丈夫だから、きっと、Aも幸せになれるよ、ううん、幸せでしょ?」
するりと離された手を、夢の私は追いかけはしなかった。
ふと、口から溢れた。
『貴方は、誰…?』
紛れも無い、私自身の言葉で。
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そういろね(プロフ) - 桃さん» コメントありがとうございます。更新頻度遅くなったりまだまだスランプ気味だったりでご迷惑をお掛けしますが、励ましの言葉をいただけることで頑張れます!これからもよろしくお願いします! (2020年3月5日 21時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
桃 - いつ見てもすごくいいです。しかも、話の内容が自分好みなのですごく見ててすごく面白いです( *´艸`)これからも、頑張って下さい。 (2020年3月1日 19時) (レス) id: 4db1c97773 (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - キングダムペンギンさん» コメントありがとうございます。応援の言葉が励みになります。テストが終われば更新頻度を上げれると思いますので、気長にお待ちください! (2020年2月23日 16時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
キングダムペンギン(プロフ) - 今まで見てきた作品の中でダントツで大好きです…( i _ i )!続き楽しみにしてます!更新頑張って下さい(*'ω'*) (2020年2月23日 5時) (レス) id: a4d7a38948 (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - k-roさん» コメントありがとうございます。一妻多夫ネタめちゃくちゃ好きなんです。沢山の人に愛読していただいて本当に嬉しい限りです、頑張ります! (2020年2月11日 22時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そういろね | 作成日時:2020年2月4日 23時