肆拾壱夜 ページ41
『トントンさん、ご飯の支度できましたよ、起きてください』
「ん、あぁ…っは、よう寝たわ…」
『あくまで仮眠ですから、今日の内にもう一度睡眠をとってくださいね』
「ん、ほんますまんなぁ…グルさんがもう少し起きててくれればいいんやけど」
『お疲れ様です…』
トントンさんに、少ししてから行くと言われたので、そのまま部屋を出て、ある人を起こしに行く。
あまり、普段会うことはないけれど、時々部屋から抜け出して甘味を求めて台所までやって来るので、全く接点がないわけではない。
初めて会ったのは、あの寝込んだ日だけれど、ちゃんと顔を合わせたのは、春の終わり頃に、アングイスさんに教わったケーキを、練習で焼いていた時だった。
『…グルッペンさん、朝ですよ』
扉は叩かず、そのまま入る。
彼はそんな音と呼びかけじゃ到底起きないので、部屋に入って起こした方が何倍も早い。
グルッペンさんは寝返りを打ち、薄らと目を開く。
その隙間から覗く灰色の瞳は、どこまでも綺麗で。
それなのに、寝起きのその油断に満ちた表情は、幼くて笑ってしまう。
『起きてください、朝ご飯、できてますよ』
「…もう、すこし…ねたい…」
『そう言ってこの前起きなかったじゃないですか、起きてください…ほら、またおやつに、何か作りますよ、何がいいですか?』
「…たると、…」
『…頑張って作りますね、ですから、起きてください』
「ん…」
まるで、小さな子供だ。
起き上がった彼は、窓の外を見て、顔を顰め、そしてもう一度私の顔を見る。
ここで長居すれば、今度は食堂に先に行った彼らが騒ぎ始めるので、出来れば早く戻りたいのだが。
見つめられる意図が分からず、首を傾げれば、優しく、低く掠れた声で。
「A」
名を呼ばれた。
ただ名前を呼ばれただけなのに、彼の悪戯な笑みですぐに、自分の顔がどんな時より比べ物にならないほど赤くなっているのだと気づいた。
顔を隠そうと腕を上げた瞬間に、彼に掴まれ、引かれる。
その仕草も、綺麗で、あまりにも優しすぎるから、抵抗できない。
『…あ、の』
「お前は直ぐに恥ずかしがるな、まだ慣れないのか、俺だけじゃないだろう、こんな風に触れるのは」
『グルッペンさんが魔性なんです、私だって、少しずつ慣れてきてますよ』
「俺は特別か?」
『…意地悪ですね…皆さん、特別な存在ですよ、私にとって』
その答えに満足したのか、彼は喉を鳴らして笑い、私の頰を撫でた。
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そういろね(プロフ) - 桃さん» コメントありがとうございます。更新頻度遅くなったりまだまだスランプ気味だったりでご迷惑をお掛けしますが、励ましの言葉をいただけることで頑張れます!これからもよろしくお願いします! (2020年3月5日 21時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
桃 - いつ見てもすごくいいです。しかも、話の内容が自分好みなのですごく見ててすごく面白いです( *´艸`)これからも、頑張って下さい。 (2020年3月1日 19時) (レス) id: 4db1c97773 (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - キングダムペンギンさん» コメントありがとうございます。応援の言葉が励みになります。テストが終われば更新頻度を上げれると思いますので、気長にお待ちください! (2020年2月23日 16時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
キングダムペンギン(プロフ) - 今まで見てきた作品の中でダントツで大好きです…( i _ i )!続き楽しみにしてます!更新頑張って下さい(*'ω'*) (2020年2月23日 5時) (レス) id: a4d7a38948 (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - k-roさん» コメントありがとうございます。一妻多夫ネタめちゃくちゃ好きなんです。沢山の人に愛読していただいて本当に嬉しい限りです、頑張ります! (2020年2月11日 22時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そういろね | 作成日時:2020年2月4日 23時