参拾参夜 ページ33
「じゃ、行こうか」
館の地下にある、大きな扉。
別界と深界を繋いでいるのだと言う。
この先に、自分の知らない未知の世界があるのだと思うと、実感が足らず、妙な緊張のみが募っていく。
ゆっくりと、しんぺい神さんの手によって開かれた扉の先には、鏡合わせしたかのように、同じ地下の壁が広がっていた。
「ほら、早く、あの子が待ってる」
上機嫌なしんぺい神さんについていき、その扉をくぐるが、景色は変わらず、別界でも過ごした館があるばかり。
しかし、一階にあがり、窓から外を見た時、漸く自分が世界を跨いだのだと気付かされた。
森などはなく、どこまでも広がる街に、巡回、または固まったように同じ位置にいる兵士。
赤い、空。
『…これが、深界』
「今日は赤雲だけど、いつもは綺麗な青雲なんだよ、残念、結婚式には青いといいね」
僕の時は青かった、と自慢気に話す彼の話に、補足するようにアングイスさんが説明してくれた。
深界では、雨がない代わりに、赤雲が出るのだと言う。
赤雲の日は光が地に届きにくいので、全体が暗くなるのだと言う。
青雲は晴れの日と同じで、明るい光が届くので、青雲が一般的に好まれるのだと言う。
「湊！ただいま！」
上機嫌なままに、別界にはなかった、小さな別館に勢いよく入っていったしんぺい神さんは、誰かの名を呼びながら誰かに抱きついた。
するりと伸びる腕が、彼の背中に優しく添えられ、若い女性の声が聞こえた。
「おかえり、昨日ぶりね」
「連日で会うのは久しぶりだね、子供達の婚約が終われば毎日一緒なのに」
「あと少しの辛抱よ、頑張りましょう」
「この前は拗ねてたくせに」
「あら、悪いお口ね」
隙間から見えた彼女の顔は、私よりも若い。
まだ二十歳にもなっていない、なんなら、十六歳ほどの娘ではないだろうか。
それなのに、纏う色気や哀愁は、とても年端もいかぬ娘が持つものではなかった。
少し、それに恐怖を感じ、ちらりとこちらを見た彼女が、無表情のまま言った。
「入って、お茶を出すわ」
彼の背中から腕を解いた彼女は、ゆっくりと腰掛けていたベッドから立ち上がった。
そんな彼女の首には、何とも美しい、花の痣が咲いていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 562人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
そういろね(プロフ) - 桃さん» コメントありがとうございます。更新頻度遅くなったりまだまだスランプ気味だったりでご迷惑をお掛けしますが、励ましの言葉をいただけることで頑張れます！これからもよろしくお願いします！ (2020年3月5日 21時) (
レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
桃 - いつ見てもすごくいいです。しかも、話の内容が自分好みなのですごく見ててすごく面白いです( *´艸｀)これからも、頑張って下さい。 (2020年3月1日 19時) (レス) id: 4db1c97773 (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - キングダムペンギンさん» コメントありがとうございます。応援の言葉が励みになります。テストが終われば更新頻度を上げれると思いますので、気長にお待ちください！ (2020年2月23日 16時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
キングダムペンギン(プロフ) - 今まで見てきた作品の中でダントツで大好きです…（ ｉ _ ｉ ）！続き楽しみにしてます！更新頑張って下さい(*'ω'*) (2020年2月23日 5時) (レス) id: a4d7a38948 (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - k-roさん» コメントありがとうございます。一妻多夫ネタめちゃくちゃ好きなんです。沢山の人に愛読していただいて本当に嬉しい限りです、頑張ります！ (2020年2月11日 22時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：そういろね | 作成日時：2020年2月4日 23時
