参拾夜 ページ30
「それにしても、飢餓状態について知らされてへんのは何でなんでしょ」
「忘れとったんちゃうの、はい、A」
『…あ、りがとう、ございます…』
「ん、熱いからゆっくり飲みや」
湯気の立つ、濃い茶色の飲み物。
すんと嗅げば、鼻を過ぎる甘い匂い。
ゆっくり、火傷しないように飲んではみるが、やはり熱いので、びくりと舌が跳ねる。
ほんの少し舌先についたその液体は、甘くて、気持ちを沈めてくれた。
ほう、と一息つくと、くすくすと笑われてしまった。
「俺達はな、偶にああいう風になってまうから、何か変だと思っても、安々と近づいたらあかんで」
『は、い…』
「ん、良い子」
「そう言えば、なんで図書館行こうと思ったんです？本読みたかったん？」
『…あめ、だから…その、そとに、いけない、ので…』
「確かに、暇やんな、今は何もすることないもんな、冬までこっちで暮らさなあかんし」
「無闇に連れまわすのはなあ…理性もたんし…」
息を吹きかけ、冷ましては飲んでを繰り返しながら、二人の視線を受け止め、その会話を聞く。
自己紹介されて、紫色の瞳なのはショッピさん、橙色の瞳なのはチーノさん。
ショッピさんは、隣に座って私の髪を触っていて、チーノさんは、私と同じ飲み物を、案外するすると飲んでいる。
熱いのには強い人なのかもしれない。
「あれ、どうしたの」
「しんぺいさん、お帰りなさい」
「お帰りなさい、ゾムさんとAが接触してもうて、ゾムさんは気絶さしてきたんですけど」
「安定剤切れちゃってたか…Aちゃんは少し催眠残ってるね…制御できないだろうし、沢山吸っちゃったでしょ」
目瞑って、としんぺい神さんに言われたので、ゆっくり目を閉じる。
小さな呟きが聞こえてから数分、頭がすっきりとし、身体の奥に残っていた違和感が消えた。
もういいよ、と声が聞こえて、目を開けば、いつも通りの感覚だった。
『ありがとうございます』
「いーえ、それにしても災難だったね、怖かったでしょ、ゾムの催眠は」
『はい…鬱さん達と少し違ったので…』
「催眠はそれぞれ違うからね、飢餓状態の話は聞いた？」
『いえ』
「じゃあついでだし話しておこうかな、ほら、二人は帰って」
「えー、ええやないですか、いても」
「だめですー、仕事あるでしょ、帰った帰った」
顔を歪めながらも、彼らは渋々立ち上がり、私の頭を優しく撫でて、医務室から出て行った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 562人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
そういろね(プロフ) - 桃さん» コメントありがとうございます。更新頻度遅くなったりまだまだスランプ気味だったりでご迷惑をお掛けしますが、励ましの言葉をいただけることで頑張れます！これからもよろしくお願いします！ (2020年3月5日 21時) (
レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
桃 - いつ見てもすごくいいです。しかも、話の内容が自分好みなのですごく見ててすごく面白いです( *´艸｀)これからも、頑張って下さい。 (2020年3月1日 19時) (レス) id: 4db1c97773 (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - キングダムペンギンさん» コメントありがとうございます。応援の言葉が励みになります。テストが終われば更新頻度を上げれると思いますので、気長にお待ちください！ (2020年2月23日 16時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
キングダムペンギン(プロフ) - 今まで見てきた作品の中でダントツで大好きです…（ ｉ _ ｉ ）！続き楽しみにしてます！更新頑張って下さい(*'ω'*) (2020年2月23日 5時) (レス) id: a4d7a38948 (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - k-roさん» コメントありがとうございます。一妻多夫ネタめちゃくちゃ好きなんです。沢山の人に愛読していただいて本当に嬉しい限りです、頑張ります！ (2020年2月11日 22時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：そういろね | 作成日時：2020年2月4日 23時
