弐拾陸夜 ページ26
「何してんねん!」
「自分は口にしといて、俺は頰にも駄目なの?」
「俺の目の前では、っ、いや、俺の目の前じゃなくても嫌やけど!」
「我儘だなぁ…あ、そうだ、トントンが怒ってたよ、書類がめちゃくちゃだって」
「うぐっ…」
「早く行かないと、こんなところで楽しく戯れてたなんて知られたら、きっと雷が落ちるよ」
「っ、Aなんかされたら叫ぶんやで!アングイス呼んで、助け求めるんやで!俺呼んでもええけど、多分トントンに放してもらえんから!好き!」
「どの口が言うんだか…」
本当に嵐のような人だ。
長い言葉を一息で言うと、鬱さんは渋々、といった顔で走り去ってしまった。
その後ろ姿を唖然と見つめていれば、私の背後から温もりが離れていった。
その時に、彼を止めてくれたのは、この人だと思い出し、振り返った。
『ご、ごめんなさい、ありがとうございました…お恥ずかしいところを…』
「全然、それに、あれは俺が見ていたくなかったし、初めまして、俺はひとらんらん、好きなように呼んで」
『ひとらんらん、さん』
「珍しい名前でしょ」
『はい、でも、シャオロンさんとか、オスマンさんとか、コネシマさんとか、皆さん不思議な名前なので』
「あはは、慣れちゃった?」
『ふふ、はい』
のんびりと流れる時間に、自然と笑みが漏れた。
彼は私の手をとって、優しく引いて、入り組んだ庭園を順番に案内してくれた。
赤と白と黄色、青に紫、橙、水や桃の淡い色に、添えられるかのように煌めく緑。
そろそろ出口というところで、一際目を引く、黒。
何故か、低く鼓膜を揺らす、あの日の声を思い出して手を伸ばした。
「…嫉妬しちゃうな、白より黒の方が好み?」
『あ、…』
その棘に触れる前に、彼は私の手を攫ってしまった。
名残惜しさにほんの少し力を込めた手は、その上を行く強い力で引かれて、目に焼き付いた黒は、一瞬のうちに白に埋め尽くされてしまった。
驚きながらも、ひとらんらんさんを見上げれば、額にその唇が押し当てられた。
「よりにもよって、俺と正反対の色なんだもんなぁ…」
『ご、めんなさい…』
「いいよ、正直、掟破って抱き潰したいけど、それで怖がられても嫌だしね」
『掟、って…?』
「Aは知らなくていいよ、大したものでもないから」
髪を梳かすようにように撫でられて、心地よくて目を瞑った。
ぴり、と、空気が張り裂けるような感覚がしたのは、気のせいだろうか。
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そういろね(プロフ) - 桃さん» コメントありがとうございます。更新頻度遅くなったりまだまだスランプ気味だったりでご迷惑をお掛けしますが、励ましの言葉をいただけることで頑張れます!これからもよろしくお願いします! (2020年3月5日 21時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
桃 - いつ見てもすごくいいです。しかも、話の内容が自分好みなのですごく見ててすごく面白いです( *´艸`)これからも、頑張って下さい。 (2020年3月1日 19時) (レス) id: 4db1c97773 (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - キングダムペンギンさん» コメントありがとうございます。応援の言葉が励みになります。テストが終われば更新頻度を上げれると思いますので、気長にお待ちください! (2020年2月23日 16時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
キングダムペンギン(プロフ) - 今まで見てきた作品の中でダントツで大好きです…( i _ i )!続き楽しみにしてます!更新頑張って下さい(*'ω'*) (2020年2月23日 5時) (レス) id: a4d7a38948 (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - k-roさん» コメントありがとうございます。一妻多夫ネタめちゃくちゃ好きなんです。沢山の人に愛読していただいて本当に嬉しい限りです、頑張ります! (2020年2月11日 22時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そういろね | 作成日時:2020年2月4日 23時