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『却下』
全く予想していなかった返答だった。
国としても、個人としても、平和主義を掲げた無防備な彼女を守る方法など、我々が盾になり、彼女らの剣となるしかなかった。
だから、お互いの関係の信頼性の為に不可侵条約の締結と、彼女の国が攻撃を受けた場合、その攻撃に対する防衛を我が国が行う安全保障条約の締結を持ちかけた。
互いに利害が一致しているはずなのに、彼女は、まるで最初から肯定の意などでなかったとでもいうかのように、否定した。
「今の無防備なままでいるつもりか」
『お前のそれは軍国主義の発想だろう、後ろに軍国が構えていて、誰が平和主義だと信じると思うんだ、それに、間接的な戦争であってもしたくない、正当防衛だろうが、直接的な鉄槌でなくとも、その方法を我が国は望んでいない』
「…しかし、今のままでは、心臓を曝け出しているようなものだぞ」
『平和とはそういうものだ、どれだけ隙を見せたって安全な、そんな世界を目指すと言っているんだから』
呆然と彼女の顔を見つめていれば、渡した契約書をまた返されてしまった。
渋々受け取れば、Aは足を組み直した。
これは、あの時間の合図だ。
もう一度顔を見れば、何処か砕けたような、穏やかな表情になった。
ここからは、俺らの、プライベートの時間。
『庭園に、新しい花が咲いていたな、少し見学したい』
「嗚呼、案内する」
手を引いて、庭園まで足を運べば、ひとらんらんがちょうど手入れをしている最中だった。
軽く挨拶をすれば、滲む汗を拭いながら笑顔で返してくれた。
生憎、植物に関しての知識はひとらんらん、エーミールには劣る。
目の前の花を愛でながら、話にも花を咲かせる2人を横目に、静かに考えた。
どうすれば、手の内に自ら入って来てくれるのかと。
『グルッペン』
「ん、何だ」
『…ぼーっとしてたから、呼んでみただけだ』
そう微笑めば、俺の髪に触れた。
早まる鼓動に、その口元に引き寄せられそうになれば、あちらから離れて行ってしまった。
その手に花弁を一枚。
『強い風が吹いていたのに、お前は全く動じないんだな、ほら、花弁が髪についていた』
「…俺に花は似合わんからな」
『そうだろうか』
花弁に口づけを落とす彼女を見つめる。
花に負けた気分だ。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずかわからないが、彼女は悪戯に笑いながら言った。
『花畑に囲まれながら死ぬのも、案外悪くないんじゃないか』
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作者名：そういろね | 作成日時：2019年8月9日 12時
