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溺れるように眠った。
いつかの日のように、霞む視界をじっくり噛み締めながら、募る吐き気を忘れるように、そう。
ただ目を瞑ったのだ。
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涙を堪えることが、幼い私には、酷く辛いことだった。
だから、思いのままに泣いたし、喚いたし、その汚い足に縋り付いたことだってあった。
それが唯一の生き方で、救いの求め方だったのだ。
しかし、いつも見下ろされる冷めた目に怖気付いて、その隙に簡単に漬け入られては、身体に傷を増やしたものだった。
『お、ねえさま…やめて…いたい、いたいの…』
「誰に向かってそんな口を聞いているの、貴女は姉の名前1つさえ満足にも言えない落ちこぼれなのに」
『ち、ちぇる、おねえさま…も、けらないで、くださ、い…』
「なぁに、聞こえないわ」
『ぅっ…』
彼女らがもし、女性ではなく男性であれば、今頃私の身体の何処かは再起不能にでもなっていたことだろう。
幸いというには辛いが、彼女達の中に怪力を持ち合わせた化け物がいなかっただけ、死を覚悟することだけはなかったことだけは、救いだったのかもしれない。
「いつまでそうしているつもりだ」
『お、とうさま…』
「今日は大事なパーティーがあると言ったはずだ、直ぐに支度をしなさい」
『いたい、いたいんです…』
「そんな怪我、いつかは慣れる」
『なれることがただしいのですか』
「…お前は賢い子だ、自身の生き方は自身で選びなさい」
消えぬ傷跡を必死に隠しても、誰も父を疑わなかった。
だって、彼は確かに私を愛していたのだから。
私は、自身の生き方をする為に、あの人を愛しきれはしなかったけれど。
そこに愛があったこと。
それも、確かに私の救いの1つだったのだ。
「お前は嫁がないのか」
『…私の生き方に、それは不必要ですので』
「…そうか、なら、最後まで私を使い切って見せろ、私の全てを、お前に託そうじゃないか」
『光栄です、お父様』
彼は、誰よりも愛を愛していた。
国民も、兵士も、家族も、自身も。
何処までも、飽きもせずに愛していたのだ。
私は、そんなあの人に呆れて、失望して、同じ血を引くことを酷く嫌悪して。
「お前には、どうか愛を知って生きて欲しい」
愛なんて不確かで曖昧なものを残すあの人を、尊敬しないわけがなくて。
彼が生き絶える時、初めて私からその痩せこけた頰に触れた。
その瞬間、彼が微笑んだのを見て。
初めて私は、誰かのために声を荒げ泣いたのだ。
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作者名:そういろね | 作成日時:2019年8月9日 12時