44日目 ページ44
「…誰」
『部屋暗くしてると、目、悪くするよ』
「ええねん、どうせ、もうまともに使わへんのやし、なあ、A」
『…』
「ああ、でも、Aの顔が見にくいなぁ、そっちの方がいいんかな、なあ、どう思う？」
電気のスイッチに添えていた手をゆっくりと下ろした。
そうすれば彼は諦めたかのような声で、ため息をつくと、彼の背丈に合わせた立派な椅子を回転させて、私を下から見上げた。
その瞳は、彼らのように何処か悲しみに溢れたものではなく、楽しそうに、それはもう幸せそうな、欲が詰まった瞳だった。
その瞳に、背筋が凍った。
「俺は、あいつらみたいに潔くないで」
『…うん、何となくわかるよ』
「でも、今どの人生よりも幸せやねん、何でかわかるか？」
『…』
「答えは簡単、A直々に手を下すからや、そんで？どんな風に殺してくれるん？」
目にハートが浮かびそうなくらいに、甘い声だった。
そういや、誰かが前に教えてくれた気がする。
誰もが心があると思ったら大間違いだと。
後退りすれば、カラン、と小瓶が鳴った。
その音を聞き逃すはずのない彼は、ニコリと笑った。
「薬かぁ、もしかして、安楽死できるやつとかか？しんぺいさんが作っどった気がするけど」
『…大正解』
「んふふ、嬉しいわぁ、Aに最期を何から何までやってもらえるんやぁ、口移しとかしてくれへんの？」
『…死ぬって言うのに、抵抗がないんだね』
「…お前じゃなかったら抵抗してたで」
その時、彼は初めてその瞳から涙を零した。
突然の、ほんの一瞬の沈黙の間に、それは流れ落ちた。
しかし、彼の顔は悲しさなんて感じさせず、先ほどと何１つ変わっていない。
まるで、ただただ上から落ちてきた水を受け止めただけのようだった。
「お前じゃなかったら、地に這いつくばってでも生にしがみつくわ、どれだけ無様でも」
何かの糸が切れたかのように、彼は目からボロボロと涙を零した。
咄嗟に拭えば、怒りのこもった手で振り払われた。
驚きながらも彼の顔を見た。
「今から殺す相手に、情け見せてどないすんねん、仲間を殺すんや、どんな理由であれ、裏切りなんやからな、それ覚悟してきたんやったら、無駄な同情なんかただの挑発としか思えへんわ」
その拒絶は、愛故なのか。
私が一思いにできるように。
そうだとしたら、その言葉を、鏡のようにそっくりそのまま返してやりたい。
『…ありがとう』
その言葉を添えて。
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ぱずる(プロフ) - 感動してボロボロ泣きましたwなんと言えばいいのか分かりませんが、とても素敵なお話でした。面白かったです!! (2021年4月30日 1時) (
レス) id: 6fda5d1ca9 (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - みみみさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなってしまい申し訳ありません！書き終えてから少し走り気味だったかもと反省していた部分があったので、好きという言葉をいただけて本当に嬉しいです！他の作品もよろしければ見てやってください。 (2020年3月6日 0時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - わたあめさん» コメントありがとうございます。返事が遅くなってしまい申し訳ありません！走りが気になってしまった部分もあり少し心残りのある作品だったので、そう言っていただけると嬉しいです！他の作品もよろしければ見てやってください。 (2020年3月6日 0時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
みみみ - やっと見つけました！ 本当に好きです！ (2020年2月16日 17時) (レス) id: a3e96579f7 (このIDを非表示/違反報告)
わたあめ - 初コメ失礼します…？感想っていうか…この話本当に好きです。他のどんな話よりも。本当に。作者さんに尊敬の花束を。 わたあめ(語彙力溶けた) (2019年7月31日 11時) (レス) id: 058dc021e0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：そういろね | 作成日時：2019年4月9日 19時
