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38日目 ページ38

膝から崩れ落ちた。
もう、身体に力なんて入らなかった。
彼が、ぴくとがこの街にいる、というその事実が、私の心も頭もいっぱいにするのだ。
どうか、また彼と笑い合いたい。
愛し合いたい。
その気持ちばかりが募って、とても耳を塞ぐ手を下すことなどできなかった。


『やだ…やだぁ…!』


腰を折り、前に倒れるようにして体を丸めた。
もう嫌なのだ。
彼らからの愛を受け取る度に、彼を思い出して、それでも突き放せない自分を酷く憎んで。
でも、自分を殺すほどの勇気も資格も私にはなくて。
結局、いつまで経っても逃げてばかり。
そんなこと、嫌という程わかってるのだ。


「…じゃあ、どうすればええねん」

『っ…』

「邪魔な奴殺して、無理矢理犯して、お前の良心に漬け込んで、こんだけ最低なことしても、なんでお前は堕ちてくれへんの」

『…と、んと…』

「何十年経っても、何百年経っても、何千何万何億繰り返しても、初めはどんだけ優しく純粋に愛しても、お前は俺らを見てくれへん」

『…なんで、ないてるの…?』

「…その言葉も、聞き飽きたわ、結局、お前はどうやったって、何もわかってくれへんのや」

『っ…』

「…俺らだって、本気でお前のこと愛しとるのに、何で、あの人しか見てくれんの」

『…』

「…俺らは逃げずに、追いかけて、同じこと繰り返して、それでも追いかけて、いつか受け止めてくれるって信じとるのに、お前は、どれだけその想いを踏みにじれば気が済むん…?」


ボロボロと涙を流して止まらぬ悲痛な心の叫びに、また耳を塞ぎたくなる。
でも、何故か、その言葉がわからないはずなのに、痛いほど胸の中に入ってきて。
彼の、いや、彼らの苦しく辛いその顔が。
1番見たくなかったものだったはずなのに、だなんて。
そんなことを思ってしまう。


「もうええわ…もう、疲れた…」


彼は目元を抑えたまま、背を向け歩き出してしまった。
それに続くように、彼らは次々に私の前からその足を遠ざけた。
酷く胸が苦しい。
なんて都合のいい女なのだろう。
離れられてから、やっと彼らの本当の胸の内を知ったのだ。
何から何まで、私は私のことだけだった。

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ぱずる(プロフ) - 感動してボロボロ泣きましたwなんと言えばいいのか分かりませんが、とても素敵なお話でした。面白かったです!! (2021年4月30日 1時) (レス) id: 6fda5d1ca9 (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - みみみさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなってしまい申し訳ありません!書き終えてから少し走り気味だったかもと反省していた部分があったので、好きという言葉をいただけて本当に嬉しいです!他の作品もよろしければ見てやってください。 (2020年3月6日 0時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - わたあめさん» コメントありがとうございます。返事が遅くなってしまい申し訳ありません!走りが気になってしまった部分もあり少し心残りのある作品だったので、そう言っていただけると嬉しいです!他の作品もよろしければ見てやってください。 (2020年3月6日 0時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
みみみ - やっと見つけました! 本当に好きです! (2020年2月16日 17時) (レス) id: a3e96579f7 (このIDを非表示/違反報告)
わたあめ - 初コメ失礼します…?感想っていうか…この話本当に好きです。他のどんな話よりも。本当に。作者さんに尊敬の花束を。 わたあめ(語彙力溶けた) (2019年7月31日 11時) (レス) id: 058dc021e0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:そういろね | 作成日時:2019年4月9日 19時

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